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Monday, September 20, 2004

おいしいコーヒーと音楽

わたくしにとって、コーヒーは数少ない嗜好品の一つです。日常的に少なからぬ量を喫飲しています。
淹れる方法は専らドリッパーです。シンプルな方法ながら、湯気に導かれて立ち上る香りともども、よい気分転換にもなります。この淹れ方もなかなか奥が深く、道具一つ、手順一つを変えただけも味わいが違ってくるもの。湯注ぎのポットを細口に変えるだけでも、また、湯を沸騰の後5分程冷ますだけでも、仕上がりは随分とおいしくなるものです。

今回は、出来上がったコーヒーを飲みながら聴く音楽の話。
勿論折々に好きなものを選べばよいのですが、ここでは特にわたくしからお薦めしたいタイトルをご紹介致します。

「アコーディオン・パリ」(学研/プラッツ)、Vol.1-Vol.5までの5枚シリーズで発売されています。
音楽ジャンルの上では『ミュゼット』と呼ばれるものですが、このジャンルを簡潔に説明することはなかなか難しい。
その起源は、オーヴェルニュ地方出身者がダンス・パーティの伴奏で奏でていた音楽です。彼らは19世紀を通じて度々パリへと大挙して移住し、共同体を形成してゆきました。1870年代になって、そこにイタリア系移民が入り込むようになります。両者なかなか相容れない関係の中、紆余曲折を経てイタリア人がミュゼットの中にもたらした楽器、それがアコーディオンでした。
その後、様々な名奏者の手を経ながら、アコーディオンはミュゼットの中で大きな地位を占めるようになります。やがてミュゼットは、時代の推移と共にサロン音楽やロマの音楽、そしてジャズなどを取り込みながら、街角の音楽としてより広く浸透してゆくのです。

今回ご紹介したシリーズは、1994年にVol.1-Vol.3がまず発売されました。この時の選曲と解説はcobaこと小林靖宏氏によるもの。その後1年を隔てて、Vol.4とVol.5が発売され、全5枚で完結となります。
収録されている演奏は、シャルル・ペギュリやエミール・ヴァシェのような、アコーディオン・ミュゼット草創期の巨匠、そして、「タタヴ」ことギュス・ヴィズール、メダール・フェレロ、トニー・ミュレナといった、ミュゼットの全盛期を築いた20世紀生まれの名手達によるものです。
時折、ダミアやジャン・ギャバン、そしてエディット・ピアフといった人達との共演が聴かれるのもまた、大きな楽しみとなっています。

このような蘊蓄はさておき、「ミュゼット」という音楽ジャンルにお馴染みのない方は、ひとまず音楽自体をお聴きになってみて下さい。「初めて聴く真っ新の音楽だ!」という感想をお持ちになる方は、そう多くはないかと思います。
実は、ミュゼットという音楽ジャンルは言うに及ばず、ご紹介したCDに収録されている音源の幾つかは、TV番組などの音素材として定着しているものです。
特に美術番組や紀行番組などで、19世紀末から20世紀前半のパリ─「巴里」という表記が似つかわしかった時代─が登場する際、頻繁に耳にするアコーディオンの音色があるはず。その多くは、きっとミュゼットです。
前述のCDの場合、すべてがSP音源であるため、音質は古めかしいものばかりですが、それ故に価値が減じることはありません。むしろ、年代を経た骨董品と同質の、得難い味わいを感じさせます。
あるものは物憂く、またあるものは小粋な音楽の数々。
プレイヤーから再生されると共に、その空間を懐旧的な雰囲気で満たし、やがて淹れたてのコーヒーの香りと調和してゆきます。

たとえ生まれた時間と場所が隔たっていても、聴く人に共通の情緒を喚起する音楽が存在するように思います。今回取り上げた音源の場合は、当て所ない郷愁とでも言えばいいのでしょうか。
これが無意識のうちに刷り込まれたイメージに由来しているのかどうか、我が身に立ち返ってもはっきりとはわかりません。何を好むかも人によって千差万別ですから、ともすればわたくしの感興自体が幻想なのかもしれない。

でも、ひとりコーヒーを淹れて静かに楽しむ方には、ここにご紹介した音楽の味わいもまた、お楽しみ頂けるのではないか。
そう思いつつ、傍らのコーヒーと共にこの記事を連ねました。
 
 

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