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Friday, September 24, 2004

ヴィラ=ロボス、ヴィーヴァ!(その2)

オードリー・ヘップバーンが1959年に主演した「緑の館」(Green Mansions)という映画があります。共演はアンソニー・パーキンス、そして監督は当時の夫、メル・ファーラーです。かの早川雪洲が出演しているのも、我々日本人としては見落とせない要素と言えるでしょう。

わたくしは実際に観ていないので、内容について云々することは出来ないのですが、調べていると、作品そのものに対する好意的な評はあまり見受けられません。ヘップバーンの主演作品の中では、かなり地味な存在となっているように感じられます。

しかしながら、この作品の音楽を担当したのが、他ならぬヴィラ=ロボスなのです。
彼による映画音楽は、2作品存在します。
一つはブラジルの映画監督、ウンベルト・マウーロ(Humberto Mauro/1897-1983)による、「ブラジル発見」(O Descobrimento do Brasil/1937)という映画の附随音楽です。後にヴィラ=ロボスは映画版のスコアを演奏会用に改訂、そのままの題名で4編の連作組曲集として発表しました。こちらは前回記事でご紹介した6枚組のCDで、自作自演を聴くことが出来ます。
そして、もう一作品が先述「緑の館」の附随音楽です。
1959年に公開された同作品の興行成績と評判は、実際のところ芳しくはありませんでした。その結果に落胆したヴィラ=ロボスは、自らの作品を救済するべく、これらの音楽についても「ブラジル発見」同様、演奏会用に改訂を施します。大幅に編成を拡大した上で、1959年の7月12日、ニューヨークにて初演されたのが、合唱とソプラノ・ソロを伴った組曲「アマゾンの森」(Floresta do Amazonas)なのです。

ヴィラ=ロボスは並はずれた多作家だったこともあり、作品の全貌は未だ完全に整理されていません。実際、いつ頃まで創作活動が続けられていたのか判然としないのですが、ヴィラ=ロボスがリオ=デ=ジャネイロで亡くなったのが1959年の11月17日、「アマゾンの森」初演から僅かに4ヶ月後なので、遺作という位置付けに限りなく近い創作と考えられるでしょう。まして、大編成の作品ともなれば尚更です。

そしてこの「アマゾンの森」、ヴィラ=ロボスによる自作自演録音が残されています。
CDはEMI CLASSICS から"INSPIRATION BRAZIL"というタイトルを付された上で、
"HEITOR VILLA-LOBOS/FOREST OF THE AMAZON" (7243-5-65880-2-8)として1996年に発売されました。
いつものように通販サイトの在庫ページへのリンクを記載したいのですが、残念なことに、日本国内では発見することが出来ませんでした。廃盤なのかどうかは判然としないので、お探しの際にはクラシック輸入CDを取り扱っている店舗にて問い合わせてみては如何でしょうか。
CDに録音年月日の記載がないので、初演と録音とのどちらが先行したのかまでは不明確です。ただ、収録場所は初演時と同様にManhattan Towers Hotelと記載されているので、さほどの隔たりは無いものと見なしてよいでしょう。

管弦楽はシンフォニー・オブ・ジ・エアー(NBC交響楽団がトスカニーニの引退後に改称した団体)、ソプラノ・ソロはブラジルが生んだ往年の名歌手、ビドゥ・サヤーン(サヤーオ/Bidú Sayão/1902-1999)が担当しています。サヤーンは1958年に引退公演を行っているので、このセッションはその後に残された録音ということになります。そして、シンフォニー・オブ・ジ・エアーは資金難から、4年後の1963年に解散してしまいました。ヴィラ=ロボスに至っては、ほぼ間違いなく生涯最後のレコーディングでしょう。様々な意味での感慨を禁じ得ないところです。
モノラル期に主たる録音歴をほぼ終えてしまった、これら三者の顔合わせでありながら、ステレオ技術で録音されている点でも貴重極まりないと言えます。

聴いていてまず感じるのが、シンフォニー・オブ・ジ・エアーの並はずれた巧さ。さすがトスカニーニによって研ぎ澄まされた名手集団、随所に演奏困難なパッセージが鏤められたスコアに対して、完璧に対応しています。ステレオ録音だからこそ、その美質もより鮮明に窺い知ることが出来るというもので、音場の豊饒であることと言ったら、トスカニーニ時代、8Hスタジオで収録された録音群を思うと夢のよう。それだけでもわたくしは泣きたくなってきます。
サヤーンのソロについては、盛時を過ぎていることもあってか、些か時代がかった印象は否めません。しばしば単独でも取り上げられる「愛の歌」など、もう少し柔軟・繊細であっても良いような気もするのですが…。
その一方で、おおらかな歌唱が音楽を一段と雄大なものにしているのも事実、総じて作品に相応しい、胸を打つパフォーマンスだと思います。
そして、鮮明な録音を介して接するヴィラ=ロボスの指揮は、想像以上に細やかです。管弦楽の技量も手伝ってか、意図されたものが演奏の隅々まで浸透しています。
死の直前とも言える時期のセッションながら、持ち前のバイタリティが極限まで発揮されている点、ひたすら感動的としか言いようがありません。

全曲中で最もセンチメンタルな美しさを誇る「愛の歌」の旋律は、終曲でもう一度、ヴォカリーズによって歌われます。あざとい音楽と映ってしまえば仕方ないことなのですが、わたくしは過剰な感情移入のせいでしょうか、何度聴いても直截に泣けてしまいます。
サヤーンの声量の衰えが、ここでは却って渾身の絶唱を生みました。
そしてヴィラ=ロボス率いる管弦楽は、巨大な波形を描きながら、大河アマゾンとシンクロして、やがて地平の彼方へ消えてゆくかのようです。

これが音楽家・演奏家としての「遺言」であると思えば、ああ、ヴィラ=ロボス、あまりにもカッコ良すぎるではありませんか!
 

続編記事>>ヴィラ=ロボス、ヴィーヴァ!(その3)
 
 

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Comments

brogでヴィラ・ロボスの名前を見るとは思いませんでした。
ブラジルでも偉大な作曲家として評価されています。

Posted by: Sao Paulo | Saturday, September 25, 2004 at 02:24 PM

Sao Paulo さま、ご来訪とコメント、誠にありがとうございます!

ブラジルにはヴィラ=ロボスの記念博物館や、その名を冠した音楽学校が存在するようですね。
自国のフォークロア的な要素をも、愛情をもって創作に取り入れたヴィラ=ロボスは、外から見ても偉大な音楽家だと思います。

Sao Paulo さまのブログも大変興味深く拝見致しました。
最近まであまり自覚していなかったのですが、様々な嗜好から総合して、わたくしはどうもブラジルに行ってみたくてたまらないと感じているようです。
その折にはヴィラ=ロボスの記念館も是非訪ねようと考えています。


思いつきざまに連ねているため、扱うトピックは甚だ纏まりを欠いてはおりますが、またお立ち寄り頂ければ幸甚です。
お待ち申し上げております。

Posted by: Tando | Saturday, September 25, 2004 at 07:01 PM

「アマゾンの森」を探していて、このページに行き当たりました。なんと、EMIコリアから発売されていました。早速購入して今、聴いています。感謝の意味を込めてこちらへ投稿させていただきました。ステレオというのは本当に感激ですね。愛の歌もすばらしい。Villa-Lobosの自作自演は音が多いような気もしないし、すごく洗練されてるように感じます。これもその通りになっています。
番号はEKCD-0833で、ボーナストラックとしてBB1-イントロ、BB2-アリア、BB5-アリアも収録されています。

Posted by: hashizo | Thursday, January 31, 2008 at 08:19 PM

>hashizoさま

お返事が遅くなってしまいました。
申し訳ありません。

私の拙い文が、些かでもご参考になったのであれば幸甚です。本当に嬉しいメッセージをありがとうございました。

ヴィラ・ロボス絡みでは、ETCETERAが在庫切れにしていた、シンフォニー・オブ・ジ・エアとの自作自演「皇帝ジョーンズ」を再プレスしたようで、私は最近ようやく手に入れることが出来ました。

1956年の録音で、この後数年でヴィラ・ロボスが逝去、そしてオリジナルのスコアが散逸してしまった(現在はパート譜から復元されたようです)という、曰く付きの貴重な録音です。
ご関心があれば、こちらもオススメ致します。
http://www.amazon.com/Heitor-Villa-Lobos-Emperor-Dan%C3%83%C2%A7as-Africanas/dp/B0000000RB/

「アマゾンの森」はオリジナルの映画「緑の館」を観るよりも、録音で聴いた方が格段に感動出来ますよね。
コメントを下さったこの記事を書いて何年も経ちますが、今読み返してみると私の気持ちが変わっていないことを自覚します。

Posted by: Tando | Saturday, April 05, 2008 at 10:58 PM

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