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Saturday, September 25, 2004

ヴィラ=ロボス、ヴィーヴァ!(その3)

さて、ヴィラ=ロボスに関する記事もこれで3回目、今回をもって一区切りと致します。
前々回前回とご紹介致したヴィラ=ロボスの自作自演は、いずれも指揮者としての録音ばかり。
ここでは、それ以外に残された、珍しい録音について書きたいと思います。

ヴィラ=ロボスのコンサート活動は、指揮以外ではピアノ演奏が中心でした。以前にも述べたように、オーケストラの楽器は殆どを演奏出来たということですが、そのスキルはむしろ創作上に活かされていたようです。

ヴィラ=ロボスがとりわけ強い愛着を抱いていた楽器は、チェロとギターです。
チェロについては、自分の父親が演奏していたということが大きな意味を持っています。専門的な音楽教育を受けなかったヴィラ=ロボスの原点には、父親から手ほどきを受けた楽典の知識がありました。そして、若い頃には生活の元手を得るために、カフェや劇場、映画館などでチェロを演奏していたということです。
ギターもまた早くから習熟していた楽器の一つです。10代の頃には既に、街の楽団に加わって演奏していたと伝わっています。
ちなみに、この時に演奏していた音楽が、サンバやボサ・ノヴァの揺籃とも言えるブラジル固有の大衆音楽、ショーロ(Choro)でした。ここから吸収した楽想が、やがて後の多彩な創作の豊かな土壌となるのです。ショーロからの直接の影響を示す作品として、ギター独奏のための「ブラジル民衆組曲」、そして前々回の記事でも触れた、10曲を越える「ショーロス」(ショーロの複数形)が挙げられます。

また、チェロ、ギターともに、同時代の偉大な演奏家─とりわけ、チェリストのパブロ・カザルス、そしてギタリストのアンドレス・セゴビア─との親交が、多くの作品を生み出しました。
カザルスによるヴィラ=ロボスの録音というものは今まで聴いたことがありませんが、セゴビアは78回転SPの時代から、しばしばヴィラ=ロボスの作品を録音しています。

それでは、ヴィラ=ロボス自身による器楽演奏の録音は、どのようなものが残されているのでしょうか?

オーストリアのSANCTUSというレーベルが1999年に発売した、
"Villa-Lobos plays Villa-lobos"(SCSH-010)
というCDがあります。録音データの詳細が記載されていないため、正確なところは今ひとつ判然としないのですが、1936年、ベルリンで行われた録音を中心に、10トラックの私家録音を収録したものです。
うち、7トラックは、ヴィラ=ロボスによるピアノ演奏の録音です。音質や残響などから察するに、恐らく、同一のセッションと推察されます。
ベアテ・ローゼンクロイツァー(Beate Rosenkreutzer)という経歴不詳のソプラノ歌手と共に録音した、自作歌曲の伴奏が4曲と、ショーロス第5番「ブラジルの魂」、「カボクロの伝説」(A Lenda do Caboclo)、「ポリシネーロ」(Policinelo)の、3曲のピアノ・ソロ作品がここに聴かれます。
全般に録音状態は悪く、復刻に際して相当なノイズ・リダクションとリバーブ処理が施されていることもあり、音像はひどくぼやけたものです。細かなタッチとニュアンスを聴き取るには、正直言って辛いものがあります。強奏や複雑なパッセージともなると、ディテールが潰れてしまうのですが、これはヴィラ=ロボス自身の演奏に起因する部分もあるかも知れません。注意深く聴いていると、ミス・タッチが時折…。
しかし、大らかな節回しの妙味、陶酔的とも言える「間」の取り方は、タリアフェロやバレンツェンといった、ヴィラ=ロボス自身に高く評価されていた名手の演奏を遙かに上回っています。
器楽的な完成度はさておき、ヴィラ=ロボスはピアノという楽器を介して歌っているんだな、ということを強く感じさせる演奏です。「ブラジルの魂」などは、録音状態の悪さを越えて、聴く者の胸を打ちます。

そして、何と言ってもこのCDの「目玉」は、最初の2トラックに収録された、ヴィラ=ロボス自身が奏でるギター演奏でしょう。曲目は、前奏曲第1番と、ショーロス第1番、いずれも頻繁に演奏される作品です。
こちらも音質が悪く、音色の輪郭が滲んだような雰囲気があります。
しかし、ここに聴かれる音楽の素晴らしさはどうでしょう。円かな音色が感じさせる、底知れない深淵。よく歌う、実によく歌う演奏ですが、決して小手先の芸当に陥ることはありません。音楽そのものをまさに今生み出しているような趣は、作曲者だからこそ為し得たのだと思います。
よくぞこのような録音が遺されていたものだと、感謝の念に堪えません。

そして、最後のトラックには、ヴィラ=ロボスによる録音年不明(1940年代?)の講演録音(ポルトガル語)が、18分強に渡り収録されています。ライナーにはテキストの記載が一切無く、講演のテーマについても言及されていないので、ポルトガル語を理解出来ないわたくしは、何も汲み取ることが叶いません。それでも、不思議とヴィラ=ロボスの言葉には心惹かれるものがあります。
度々触れてきた自作自演セット収録の、フランス語での講演と比較すると、別次元とも言える深々とした含蓄があり、まるで詩の朗読のようです。理解出来ない言語の、時間的にも決して短くはないトラックなのに、一旦再生すると何故かいつも最後まで聴き通してしまう、強い力を持った語り口です。

その中で僅かに聴き取ることが出来た、"coração"(コラソン/心)という言葉の繰り返しが、ずっと脳裏に残り続けています。

─心。
その音楽、様々な形で遺された自作自演を聴いていると、いつの間にか、避け難く辿り着いている言葉です。
ここでのヴィラ=ロボスは、どんな「心」について語っているのでしょうか…?
 
 

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