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Tuesday, September 28, 2004

ピュイグ=ロジェの「月の光」

今夜は中秋の名月ですが、生憎の曇り空です。
見えない月の姿を、せめて音楽で偲ぶことに致しましょう。

「ドビュッシー&フォーレ : ピアノ作品集~月の光」

ここでピアノを演奏しているのは、アンリエット=ピュイグ・ロジェ(Henriette Puig-Roget/1910-1992)という女性ピアニストです。
パリ音楽院を極めて優秀な成績で卒業し、ピアニスト・オルガニストとして活躍する一方、母校での教育活動にも従事、1979年には東京芸術大学に招聘され、死の直前まで客員教授として後進の指導にあたりました。

ピュイグ=ロジェが如何に素晴らしい音楽家であったかは、遺された録音にも明らかです。わたくしは未だその全貌に接してはいないのですが、上掲のCDともう1点、

南ヨーロッパ音楽紀行・バロックの世界

について言えば、ピアノ録音史に永く記憶されるべき、至宝中の至宝であると信じています。
結晶のように清楚で、真心の籠もった音楽は、たとえ幾度繰り返して聴いても飽くことがありません。
たとえば、今回記事のタイトルとしたドビュッシーの「月の光」、耳を傾けていると、何を聴いているのか分からなくなる瞬間があります。自分は今、音楽ではなくて、月の光そのものを音楽のように聴いているんじゃないか、ピュイグ=ロジェは、そういうことを思わせる演奏を為す人なのです。


「南ヨーロッパ音楽紀行」は元々、日本のレコード会社、アポロンが「ハーモニーCDクラシックス」というレーベルから、「アンリエット・ピュイグ=ロジェの音楽紀行」というタイトルで発売していたもの。
このレーベルの企画・監修は、「ドラゴンクエスト」のすぎやまこういち氏、この不世出とも言うべき傑作アルバムは、氏のプロデュースによって生まれました。氏の慧眼に敬意を表すると共に、音楽を享受する一愛好者として、改めて深い感謝の念を捧げたいところです。

曲目解説は、ピュイグ=ロジェ自身が受け持っています。
その冒頭の、

私は、これらの作品を、人の心を楽しませる花束を作る為に、気品に満ち、美しく、良い香りのする野の花を摘むように、集めたのです。

という言葉が、このアルバムの全てを物語っています。
選ばれた花のひとつひとつが持つ美しさ、放たれる芳香、花束としてのアレンジメントにいたるまでが、まさに極上と言うほかありません。

古楽にも造詣が深かった筈のピュイグ=ロジェが、ここで敢えてクラヴサンを用いなかったのは、何故か。
そのピアノによって奏でられる、ダングルベール、大クープラン、ラモー、デュフリ、チマローザ、アルベロ、ブラスコ=デ=ネブラ、セイシャスの音楽の中に、その答えがあります。バロック音楽をピアノで弾く、という行為の意義は、この演奏の中に不滅の花となって、咲いています。
 
 
 

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