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Monday, October 11, 2004

隻眼のマッド・バロン

ロマン=ニコラウス・フョードロヴィッチ・フォン=ウンゲルン=シュテルンベルグ男爵(Baron Roman Nikolaus Feodorovitch von Ungern-Sternberg/1885-1921)という、帝政ロシア末期の軍人があります。
これが、混迷を極めたロシア革命史の中にあって、一際異彩を放つ怪人物なのです。
わたくしは、岩波文庫の「トゥバ紀行」(メンヒェン=ヘルフェン/田中克彦訳)によって、初めてウンゲルン男爵の存在を知りました。
本文と注釈中の決して多くはない記述を総合しても、現代史離れした無軌道な生き様が垣間見えて、関心は尽きません。

ウンゲルン男爵は1885年、エストニアに生まれました。自身が語るところによれば、その家系は12世紀にロシアに侵攻したドイツ騎士団に起源を持ち、さらに匈奴の血をも引いているということです。
ロシア革命の混乱期、男爵は当初シベリアで白軍の部隊を指揮していました。しかし、赤軍に追われたことでモンゴルのクーロン(庫倫/現ウランバートル)へと転進します。そこで男爵は、モンゴル在来の中国人を放逐して、反革命の拠点、ひいては自らの帝国を興すことを画策するのです。寄せ集めの部隊1000人(2000人とも)を率いた男爵は勝敗を繰り返しながら、遂にはクーロン攻略に成功しました。モンゴル人は当初、長く続いた中国人支配からの解放者として、男爵を大歓迎したといいます。
しかし男爵の統治は残虐極まりないもので、程なく完全に人心を失うことに。やがて侵攻してきた赤軍との戦いに度重ねて敗れ、1921年、護送先のノヴォシビルスクで銃殺されました。

日本語で男爵の名を目にする機会というのは、専らモンゴル史に関する文献が中心です。「隻眼のマッド・バロン」という異名で呼ばれていたとか、その部隊には100人にものぼる日本人が参加しており、「日の丸大隊」と称していた─など、断片的な情報は見出せても、まとまった伝記に逢着することはありません。
海外サイトで発見した肖像は、エピソードに違わぬ悪相ぶりを呈しています。何やら風格すら漂わせているではありませんか。

ungern.jpg

なお、モンゴルにおける男爵の活動と人となりを諸外国に知らしめたのが、ポーランド出身の探検家、フェルディナンド・オッセンドフスキ(またはオッセンドウスキ/1876-1944/Ferdinand Ossendowski)です。
彼はロシア革命からの亡命の途上、ウンゲルン男爵の知遇を得て、一時期をその帷幕で過ごしています。
オッセンドフスキの記述によると、男爵はオカルトにのめりこんだ半狂人で、殺した人間の生き血を飲んだりしていたとか。西欧では未だにこのイメージが定着しているようで、ルーマニアの「串刺し公」ヴラド・ツェペシュや、ハンガリーの「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリーと並んで、実在人鬼の系譜に加えられることも少なくありません。
しかし、「トゥバ紀行」のメンヒェン・ヘルフェンは同著の中で、それら全てが虚構であることを喝破しています。そもそもオッセンドフスキ自身が、地底王国の存在をレポートするなど、胡散臭さ溢れる人物なのですが…。
ともあれ、ウンゲルン男爵が常軌を逸した残虐性の持ち主であったことは確かなようです。


さて、ウンゲルン男爵、ごく最近になって知ったのですが、フランスのアニメーション映画に登場しているらしいのです。

その作品はコルト マルテーズ(Corto Maltese)
ユーゴ・プラット(Hugo Pratt/1927-1995)原作の大ヒットコミック(フランスではバンド・デシネ-Bande Dessineeと呼ぶ)のアニメーション化で、今年の前半に日本でも配給されたとのこと。寡聞にして知りませんでした。
詳しくは前掲サイトをご覧頂きたいのですが、とにかくこの作品、一度観たくてたまらない! 
舞台設定、登場人物、キャラクターの造形、見れば見る程、個人的なツボを押さえ切った雰囲気を漂わせているのですよ~o(>_<)o

DVDが国内発売されているとのことなので、購入を真剣に検討しているところです。

スタッフに目を移して気付いたのですが、マリー・トランティニャンが声優として出演しているのですね。
この人の最期は、本当に気の毒なものでした。
胸が痛みます。


続編記事>>コルト マルテーズ(Corto Maltese)
 
 

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Comments

うーむ、こんなとんでもない人物だったんですね。
ワタクシ、このウンゲルン男爵(爵位も初めて知りました)って赤軍に追い払われた白軍の頭領というイメージしかなかったのですが、まさかこんなデンジャラスだったとは(苦笑

それはともかく「コルト マルテーズ」はよさ気ですね。
近代のまだ大風呂敷を広げまくれた時代って大好きです。
中国が怪しさ炸裂しまくってそうなのも好み。
そして、主人公のモミアゲがせくしーなのもいいです←?

Posted by: 2号機 | Tuesday, October 12, 2004 at 09:36 AM

独立前後のモンゴル史は、白軍、赤軍、中国、そして日本の思惑が絡み合う、非常に興味深いものだと思います。食い物にされる側としては堪ったものではありませんけどね(^^;
ともあれ、伝奇モノ向きの題材がごろごろ転がっていそうです。「コルト マルテーズ」もその一端と言えそうですね。
「チャン将軍」という人物は張作霖でしょうか。作品中のビジュアルが判らない分には何とも言えませんが…。

その後検索して幾つかのレビューを見つけましたが、作品の上映時間90分に対して、少々詰め込みすぎのような所があるみたいです。この際、TVシリーズにしてしまえばいいのに。
登場人物が総じて冷淡すぎる、という評価が随所で散見される点も、気掛かりと言えば気掛かり…(^^;

それにしてもこの作品のキャラクター、なんとなく「キングゲイナー」っぽい雰囲気をわたくしは感じるのですが、2号機さんは如何でしょうか(笑

Posted by: Tando | Tuesday, October 12, 2004 at 09:11 PM

それと、予告編が観られるサイト見つけました♪
少なくとも、雰囲気はかなりイイ感じであります。
http://theater.nifty.com/db/0000050151/main.jsp


女公爵、こうやって実際に動いて喋ると、蠱惑的だなあ…(笑

Posted by: Tando | Tuesday, October 12, 2004 at 09:21 PM

あー、確かにキングゲイナーっぽい空気が(笑
帝政ロシアというか、ヨーロッパとはまた違った雰囲気が漂ってますね

Posted by: 2号機 | Wednesday, October 13, 2004 at 11:17 PM

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