« コルト マルテーズ(Corto Maltese) | Main | 二泉映月─阿炳の二胡録音 »

Monday, October 18, 2004

漢宮秋月─蒋風之の二胡演奏

先月の初めに「病中吟」と題して、張鋭の二胡演奏CDを取り上げました。

記事の中で阿炳自身の録音について触れているにも関わらず、その後二胡に関するトピックを扱うことはありませんでした。そこで今回と次回とに渡り、阿炳の録音も含めて、手許のCDから再び書き連ねたいと思います。

今回は江蘇省出身の巨匠、蒋風之(1908-1986)の演奏を収録した、2枚のCDについて。

二胡や琵琶といった、中国の伝統的な器楽を独奏芸術の域にまで高めた、不世出の作曲家にして演奏家、そして偉大な教育者、劉天華(1895-1932)。
蒋風之はその直弟子です。
1929年に彼は、北京大学(当時は北平大学)の教官を勤めていた劉天華を訪ね、以後、公私に渡る薫陶を受けることになります。
蒋風之自身もまた、独自の教育メソッドのもと、北京芸術学院、中央音楽学院、中国音楽学院などで多くの優秀な弟子を育成しました。その活動は、上海音楽学院を中心として教育に勤しんだ同世代の名手、陸修棠(1911-1966)と並んで、「南陸・北蒋」とも称される一大流派を形成したとのことです。

蒋風之の演奏は、以下の同系2枚のCDに復刻されています。

◆中国民族管弦楽音像大百科─二胡演奏大師 蒋風之(1)(2)/中国音楽家音像出版

jiang.JPG

2枚で合計26曲に渡るトラックが収録されていますが、詳細は割愛致します。
1枚目は「漢宮秋月」「高山流水」のような伝統曲、2枚目は「病中吟」や「空山鳥語」といった、劉天華の作品が中心です。

録音年代が明示されていないので仔細は不明ですが、音質にはかなりのばらつきが見られます。SP盤からの板起しと思しき音源、そしてモノラルでのテープ録音と、概ね2種類の傾向に大別出来るものの、音像はより古いと思しき前者の方が鮮明です。テープ録音の方は残響が過剰気味で、鍾乳洞か何かを思わせる音場が、非常にもどかしく感じられます。

演奏を聴いていて感じること、これは全てのトラックに当てはまるのですが、何処か饒舌さを拒んでいる雰囲気があるのです。
非凡な技量を持ちながらも、蒋風之は楽器を闇雲に「鳴り響かせる」ことを目指してはいません。その技量は、専ら楽器自らを「語らせる」為に用いられているかのようです。
艶麗な音色の追究を敢えて捨て去り、更に深遠な境地を志向する蒋風之。あらゆる音楽ジャンルを問わず、今日では殊に稀になった美意識を感じさせます。
蒋風之自らの採譜・編曲によって名高い「漢宮秋月」の音質は、前述のうち残念ながら「鍾乳洞」の方に属するものです。しかし、ひとたびその芸境に接すると、もはや言葉も無く傾聴するほかありません。
緩徐な楽想の中、肌理細やかな運弓によって、古の宮女の悲憤、怨情、憂愁を描き出す「漢宮秋月」。
蒋風之が奏でる沈々とした趣は、昔語りの世界も、はた、現世をも越えて、ただ静かなる彼岸の域を思わせます。
 

さて、次回はいよいよ阿炳自身の録音です。
 
 

|

« コルト マルテーズ(Corto Maltese) | Main | 二泉映月─阿炳の二胡録音 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« コルト マルテーズ(Corto Maltese) | Main | 二泉映月─阿炳の二胡録音 »