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Thursday, October 28, 2004

美しきマリア・ティーポ

ああ、斯様なCDを与え給うとは。
音楽の神様はわたくしに、無人島に行けと仰るのでしょうか。

2ヶ月程前に発売が予告されて以来、心待ちにしていたタイトルを購入しました。

J.S.Bach Variations Goldberg(5CD set) Maria Tipo

イタリアの女性ピアニスト、マリア・ティーポ(1931/32-)によるバッハ録音集、5枚組BOXで概ね3000円弱という廉価にて、実に玄人好みのする名演を提供してくれるEMI Franceの"COMPOSERS BOXES"の新譜です。
収録曲目は、以下の通り。

◆Disc-1
ブゾーニによる編曲集
無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番 BWV1004より「シャコンヌ」
トッカータとフーガ BWV565
トッカータ、アダージョとフーガ BWV564
前奏曲とフーガ BWV532
前奏曲とフーガ BWV552「聖アン」

◆Disc-2
ゴルトベルク変奏曲 BWV988

◆Disc-3
「主よ、人の望みの喜びよ(イエスはわが喜び)」(マイラ・ヘス編曲)
半音階的幻想曲とフーガ BWV903
ヴィルヘルム=フリーデマン・バッハのためのクラフィーア小曲集
6つの小前奏曲BWV933-938/BWV939-999
小フーガと前奏曲、フゲッタBWV961,952,953,902a,902
前奏曲とフゲッタ BWV899/900
前奏曲とフーガ BWV895
イタリア協奏曲 BWV971

◆Disc-4
パルティータ1,2,4番

◆Disc-5
パルティータ3,5,6番


価格を考えると、パルティータ全曲にゴルトベルク変奏曲だけでも大盤振る舞いだと思うのですが、それにも増してわたくしを狂喜させたのが、Disc-1のブゾーニによる編曲集です。
ブゾーニ(Ferruccio Busoni 1866-1924)によるバッハ作品のピアノ編曲は、その質の高さに比して、1枚に纏められたCDとなると、些か種類を事欠く感があります。
また、「シャコンヌ」については、ブゾーニ自身による自動ピアノのペーパー・ロール録音を聴いて魅了され、わたくしの手許に集まった録音は10点以上を数えます。しかし、演奏と録音条件とが共に備わった演奏は、未だ見出せずにいました。
これは峻厳を極める原曲に対して、ブゾーニの編曲が装飾的な傾向を強く示していることも原因だと思います。ピアニスティックな効果を過剰に追究すれば、内容空虚な表現に終始してしまうし、あまりストイックに演奏してしまっては、音楽としての精彩を欠いてしまいがちです。
その点で、ここに聴かれるティーポの演奏は、まさに福音とも言えるものでした。精緻でデリカシーに富んだ表現と、劇的な効果とが見事なバランスを保っています。
ブゾーニによる編曲は、つまるところロマンティックなものであり、この版を以て聴き手に訴求するためには、表現者の自我が抑制されるよりも、ある程度解放される必要があると思います。ティーポの演奏は、そうした表現意欲をも見事に備えているのです。

更にわたくしを歓喜の絶頂に誘ったのは、前奏曲とフーガ「聖アン」でした。わたくしはこの作品が大好きで、常々この作品を以てバッハが書いた最も美しい音楽の一つであると感じることさえあります。ブゾーニによる編曲は無類の完成度を誇るものですが、この編曲版もまた、演奏と録音条件とを兼ね備えた音源を見出せず、現在に至るまでエトヴィン・フィッシャーのSP録音を聴いていたのです。
そして今、ティーポの録音に出逢ったことで、漸く理想的な演奏を見出した心地です。
細部まで綿密に表現する技量、楽曲を壊すことなく、しみじみと訴求する情感。何一つ取っても欠くところは無く、ただ喜びのみがもたらされます。
清楚でありながら、その根源に朗らかさを湛えた音色は、燦々たる光彩に溢れ、やがてゴシック様式の大伽藍を顕現させるかのようです。

名盤が多い中にあって、「ゴルトベルク変奏曲」とパルティータの完成度の高さも特筆に値します。
ティーポの表現はテクスチュアを立体的に捉えながらも、至極柔和で、聴きながらに心が広々と解き放たれるようです。
知と情を兼備した、と言うはたやすくとも、永く聴く者の心に止まるためには、何かもう一つ強い力が必要であるように思われます。
天分に左右されるとも言えるこの要素を、ティーポは確かに持っているピアニストです。

ちなみに若き日のティーポのご尊顔、VOXBOXによる2枚組CDのジャケットに用いられています。
mariatipo.JPG

イングリッド・バーグマンを思わせる(?)麗しい容貌で、このような名演を成していたとは…。花も実もあるとは、こういう人を指すのでしょうね。
憧れてしまいます。
勿論それは余談であって、当記事のタイトルは、あくまでも演奏に敬意を表してのものです(^^;

マリア・ティーポ氏は現在も旺盛に活動を続けておられるようです。
今後もし来日公演が催されるようなら、是が非でもその実演に接したいと思います(^-^)
 
 

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