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Wednesday, November 17, 2004

オイゲン・シェンカール(センカー)の録音

別にこのウェブログはマイナー志向と云う訳ではないんです。
ただ、何故かしらWeb上で演奏評を見かけない音楽家やCDは、確かに存在しているのです。

「予備知識の無い、面白そうなCDを見つけた」
 
「購入する前に、ある程度の世評や付帯情報を把握しておきたい」
 
「キーワード検索で情報が全く見付からない(;-;)」

という事態は往々にして発生するもの。
仮に、知名度の低いその音源が名演であった場合、情報の少なさが人を遠のけるとすれば、惜しまれて余りある事だと思います。
別にその音源の地位向上に貢献、とか大それた目的意識では無くて、少しでもWeb上にサンプルを増やしたい、そんな心づもりで色々と書いている次第です。


今日は出先のワゴンセールで、気にはなっていたけどフルプライスで買うのは躊躇っていた…そんな音源を幾つか購入しました。3枚購入しても2000円しない、という価格設定ですから、この機に買わなければずっと買わないに決まってます(^^;

そんな中で強烈なインパクトを与えてくれた音源が、ハンガリー出身の指揮者オイゲン・シェンカール(or センカー/Eugen Szenkar,1891-1977)のライヴ録音。1950年2月20日、北西ドイツ放送交響楽団(NWDR)との演奏です。


収録曲はヘンデルのコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)op6-12と、ベルリオーズの「」幻想交響曲」の2曲。HMVのサイトでも記載されていますが、ヘンデルはチェンバロではなくピアノを用いており、演奏はシェンカール自身が受け持っているとのこと。

ヘンデルは冒頭からテープの状態が悪く、音像が比較的明瞭な割に随所で歪みがあります。また、この時点ではオーケストラが本調子ではないのか、取り回しが重く、目立つミスもしばしば。
バロック作品でピアノを用いている、という前時代的な編成からも想像出来るように、総じて非常に濃厚な演奏です。テンポは遅めで、響きも分厚い。シェンカールの表情豊かなピアノ独奏ともども、今日一般的な演奏スタイルに比べると、少なからぬ違和感があります。誰にでもお勧め出来る演奏ではありません。
とは言え、この時代にあってメロディックな側面を強く持つヘンデルの作品、たとえばバッハを同様のスタイルで演奏するよりは、ずっと相性が良いとも感じられます。
わたくしはこの第12番のコンチェルト・グロッソが大好きなんです。特に第2楽章のアレグロ(このCDでは第1楽章のラルゴと同一トラックに振り分けられています)の哀切な美しさはたまらないものがあります。
ここに聴かれる演奏に美質を見出すとすれば、熟れすぎた果実の香りと甘さを味わう心地に尽きると思います。
わたくしはこんな演奏も好きです。

そうは言っても、このCDのメインは「幻想交響曲」です。この演奏が無ければ、殊更にシェンカールの記事を書こうとは思わなかった事でしょう。
もともと演奏効果の高い作品ですから、そうそうつまらない演奏に陥ることはあるまい…と云う程度の心づもりだったのです。
ところが、実際に聴いてみると、完全にやられてしまいました。凄い演奏ですよ、これは。

随所で細かなアゴーギクが施されており、指揮者が1891年生まれであると云うことを考えれば、世代相応よりも古いスタイルに属する解釈と言えるでしょう。
オーケストラは必ずしも巧くはありませんが、ライヴということもあってか、指揮者の当意即妙の指示に食らい付くような熱気が好ましいです。
何よりも特筆すべきなのがダイナミック、それも強奏に於ける凄まじい迫力です。ハンパじゃありません。近年一部で用いられている「爆演」という類型が存在しますが、この「幻想交響曲」はまさに爆演以外の何ものでもありません。
マニアックな喩えですが、究極の爆演指揮者とも言うべきニコライ・ゴロワノフが指揮したら、こんな風に響くのではないか、そういうレベルに達しております。
とりわけ後半の2つの楽章は圧倒的です。トゥッティに聴かれる、地鳴りのような迫力溢れる響き、往時の風刺画に見られるベルリオーズ像と、ぴったり符合するように感じられるのです。「ワルプルギスの夜」の壮絶な響きに至っては阿鼻叫喚の極致、音によるパンデモニウムさながらと言えるでしょう。

世の中にはライヴとスタジオ録音で全く違う演奏を聴かせる指揮者があります。このライヴだけを以て、てシェンカールを「爆演指揮者」と類別するのは、ひとまず控えましょう。
しかしながら、ここに1枚の圧倒的な「幻想交響曲」のCDがある、シェンカールの名はそれだけでも長く記憶に留めるに値すると思います。

古い音質を許容出来る、という方ならば、ご一聴頂く価値が充分にある「幻想交響曲」です。
 
 

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