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Saturday, December 04, 2004

ドルドラの自作自演を聴く

これまた、先月に話題は遡ります。

芸術家の肖像」と題した記事の中で、チェコのヴァイオリニスト/作曲家/指揮者、フランティシェク・ドルドラ(František Drdla/1868-1944)について、少々触れました。
最近になって偶然知ったのですが、ドルドラ自身の録音が、合計18トラックもCD化されているというのです。これまでCDに復刻されたドルドラの録音と言えば、1903年(気が付けばもう100年以上前になってしまいました!)にG&T社に録音されたショパンの夜想曲op9-2(サラサーテ編曲)と、先述の記事中でも述べた「思い出」(スーヴェニール)の2曲だけだったのですから、大変な朗報。
個人的なアラートレベルはS級です。是が非でも手に入れねば!

しかし、いざ欲しいぞ、と意気込んだところで、すぐには手に入りそうもないことが判明しました。
発売元はヤン・クベリーク(クーベリック)協会-Jan Kubelik Societyという団体です。
この団体は、チェコ出身のヴァイオリニスト、ヤン・クベリーク(Jan Kubelik/1880-1940)の顕彰と普及を目的として、1990年に設立されたもので、発起人は指揮者のラファエル・クーベリック(1914-1996)、ヤンの子息に他なりません。ラファエルの没後はその子女アニタ・クベリーコヴァー氏が活動を継承しており、2000年以降CDの発売も開始されました。
ドルドラの音源は、ヤン・クベリークやヴァーシャ・プルジホダ(1900-1960)による録音と併せて、2枚組仕立てで同協会から復刻されたものです。
しかしながら、このCDは所謂「協会盤」というカテゴリに属したもので、本来は協会からの直接頒布を中心に流通するべくして発売されているのです。従って、日本国内で入荷する店舗となると、相当に限られてくることになります
当然ながら、大手通販サイトで取り扱ってはいません。
そこで恃みましたるは、以前から何かと御高配を頂いているレコード店様なのです。(さすがに拙記事をお目に掛けるとなると面映ゆいので、お名前は迂回致しました…(^^; )

実のところ、最近は殊にご無沙汰しており、些かの心苦しさを感じます(-_- ;
そこを忍びつつ、発注をお願いすることに致しました。
そして本日、店主様にお伺いしたところ、在庫なさっているとのことです!

なんということでしょう!(by 劇的ビフォーアフター)
気分はまさしく、「匠からのプレゼント」(by 劇的ビフォーアフター)でございます。

…ちょっと、テンションが上滑り気味ですね。嬉しさ故とは申せ、自重自重…。


さて、実際に現物を聴いた感想です。

ドルドラによる演奏曲目は、クベリーク協会の画像をご参照下さいませ。先述の「思い出」も収録されています。
このテイクの録音年を、以前の記事では、不正確なデータに基づいて1920年としていました。しかし、当盤では1924年とクレジットされているので、以後はこちらに従います。

ドルドラはヴァイオリン曲を中心に、600曲を越える作品を残したと言われています。しかし、現在も演奏される曲は、その中でもごく一部です。「思い出」以外では、辛うじて「セレナード」と「子守歌」くらいでしょうか?
いかにも昔風の甘美な、サロン音楽といった趣の作品が多いので、時が経つに連れて忘却されたのもやむを得ないのかもしれません。しかし、そのメロディはいずれも親しみ易く、演奏する人があれば、明日にでも息を吹き返しそうなものばかりだと思うのですが…。

実は、この協会CDを「S級アラート」たらしめた、極めつきのトラックがあります。
それは、ドルドラの自作自演、「幻影」(Vision)という作品です。
わたくしはこの曲を、クベリークの録音(協会盤にはこちらも収録)で聴き知って以来、長らくの間魅了され続けてきました。

冒頭を飾るのは8小節のピアノ序奏、この部分からして既に異様とも言える美しさです。ホ短調をとる旋律は、どこか古いオルゴールのような気配を宿しています。僅かな20秒程の間に、聴く者の心を追憶の境地へと導く、そんな力がこもっています。
そしてヴァイオリンのG弦が奏でる、哀切なカンタービレ。楽想は悲喜の狭間を揺らめきながら、やがて名残を惜しむかのように結尾へと至るのです。
古今のヴァイオリン小品多しと言えども、かくも耽美的な美しさを湛えた作品が、果たして如何ほど存在するでしょうか。眠らせたままにしておくのは、誠に惜しむべきことであると思います。
この「幻影」を自作自演で聴くことが叶う、まさに望外のことです。
万難を排して協会盤を入手するつもりでしたが、こんなにも早く実現したのは僥倖と言うより他にありません。

正直なところ、前述クベリークによる演奏の印象があまりにも強いことから、ドルドラの演奏に接する事に対して、一抹の危うさをも感じていたのです。
しかしながら、幸いなことに、それは杞憂に過ぎませんでした。

クベリークとドルドラのスタイルは、非常によく似ています。運弓は軽く保たれており、ソフト・フォーカスの映画を思わせるような、ごく柔らかい音色が特徴です。これはヤン・フリマリー(フルジーマリー)やシェフチーク、フランティシェク・オンドジーチェク(オンドリチェク/オンドリシェク)といった人々が形成した、いわゆる「チェコ流派」に属するヴァイオリニスト共通のものと言ってよいでしょう。
ただ、クベリークがフレーズ毎に濃厚な表情を与えているのに対して、ドルドラのフレージングは幾分直線的です。その分だけ、内に向けられた情感に於いては、ドルドラが優るようにも感じられます。しかし、あくまで同根より生じた僅かな差違に他ならず、各々の価値を相侵すようなことはありません。それくらい両者の演奏は似ているのです。
同様に、漸く聴き得た「セレナード」の自作自演と、クベリークによる同曲の録音に於いても、それは共通しています。

それにしても、これ程の佳曲・佳演の数々が、何故これまで復刻されなかったのでしょう。1903年録音のG&T盤は致し方ないとしても、1924年の録音についても、オリジナルは余程の稀覯盤なのでしょうか…?

さて、次回はこの勢いでヤン・クベリークの演奏についても述べたいと思います。

クベリークが1900年代初頭に吹き込んだ録音群は、このヴァイオリニストがまさしくベル・エポック期の象徴たる存在であったという事実を窺わせるものです。
 
<追記1>
本日帰宅したところ、本日配布された地元タウン紙の特集記事(オペラ関連の内容でした)に、先述の店主様が顔写真付きで登場しておられるではありませんか。時間を隔てず思いがけない形でお見かけするお姿、なんだか不思議な心持ちですね。

それにしても、長らくの欠礼にも拘わらず、変わらぬ御高配、ただただ感謝の一言に尽きます。
 
<追記2>
クベリーク協会によるこのCDは、HMVが取り扱いを開始するようです。

"Czech Violinists: J.kubelik, Prihoda, Drdla, Celeda"

既発売のCDながら、若干入荷に時間がかかると見受けられ、発売は2005年1月31日となっています。
ともあれ、国内から容易に入手が可能になるのは有難い事ですね。

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