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Sunday, February 06, 2005

「落花の雪」─ふたたび、美しい日本語

落花の雪に踏迷う、片野の春の桜がり、
紅葉の錦衣て帰、嵐の山の秋の暮、
一夜を明す程だにも、旅寝となれば懶に、
恩愛の契り浅からぬ、我故郷の妻子をば、
行方も知ず思置、年久も住馴し、
九重の帝都をば、今を限と顧て、
思はぬ旅に出玉ふ、心ノ中ぞ哀なる。

(太平記第二巻『俊基朝臣再び関東下向の事』)


以前に「美しい日本語─『名訳詩集』」と題したエントリーをアップロード致しましたが、今回はその続編です。

「落花の雪」は「太平記」巻中で、囚われの身となった日野俊基が、京から鎌倉に護送される行程を描写した段です。
巧みな語彙と七五調とが相まって、古来より名文、名調子として愛誦されました。

わたくしの手元にある「晶子/朔太郎/春夫/白秋 他 自作朗読の世界」(日本コロムビア/COCF-15290)と云うCDには、土岐善麿(とき・ぜんまろ,1885/明治18年-1980/昭和55年,歌人、国文学者、批評家)が朗読する同段が収録されています。

実はこのCD、タイトルからもお察し頂けるかと存じますが、戦前に活躍した詩人、歌人、俳人たちによる自作朗読音源を収録したものなのです。
昭和12-13年に録音されたと言う全19トラックに名を連ねているのは、まさに錚々たる文人です。
参考までに登場順に列挙すると─与謝野晶子、萩原朔太郎、河井酔茗、室生犀星、川路柳虹、佐藤春夫、斎藤茂吉、釈迢空(折口信夫)、西條八十、堀口大学、高浜虚子、土岐善麿、北原白秋─。
なんだかクラクラしてきます。読書人必携、と言いたくなってしまいますが、在庫している店舗は思いの外少なく、収録内容には不相応なくらい知名度も低いのです。
殊に「音源交歓」的な機会へ携行すると、いつも非常に歓迎されます。

何方であれ、必ず1トラックは心惹かれるものが収録されているのではないでしょうか。個人的には北原白秋の自作朗読「邪宗門秘曲」が、たまらない音源です。
まだまだ現役盤扱いのようなので、ご関心の向きは是非にとお勧めする次第であります。

さて、話を「落花の雪」に戻しましょう。
実はわたくし、本編とは離れた形でこの段を知ったので、前後の経緯を殆ど把握出来ていませんでした。ただ、典型的な「日本語の名調子」として著名である旨から、心に留まっていたのです。

今更、と云う感じも致しますが、先頃思い立ち、文中の単語を拾って調べてみました。
「嵐の山」は京都の嵐山で、わたくしの生活圏とも程近く、非常に馴染み深い場所。では、「片野の春の桜がり」の「片野」とは何所なのでしょうか…?
実はこの「片野」、現在では字面が替わり、「かたの」と、同じ読み方のまま「交野」となっています。つまり、これは現在の大阪府交野市を指していたのです。
やはりわたくしの生活圏から程近い…、と申しますか、身辺の某私鉄でそのままアクセスできる地理ではありませんか。
独り、秘やかに驚いている次第なのです。

まだ寒い毎日が続くものの、先頃立春を過ぎ、春への秒読みが始まりました。
花の季節はもう暫く先になりますが、今年は機会を設けて交野の桜を見に行こうかな、などと考えています。
 
 

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Comments

うちの方ではR指定(笑)な話題をやっている最中に、美しい日本語など格調高いエントリーを挙げられているtandoさまのblogはいつも楽しみです。
「だがっき」のblogの方でインデックスを試作してみましたが、作るのが面倒くさい割になんか雑然としててうまい方法が無いかと思案中です。cocologが機能をアップしてくればいいのですが、なかなか難しいのでしょうね。

Posted by: サンタパパ | Wednesday, February 16, 2005 at 09:21 PM

>サンタパパ様

「耳から官能」、大変興味深く、楽しく拝読致しました(^^)/
エントリー中で言及されていた「魅惑のムード☆秘宝館」は、以前に何かのきっかけで、それもAmazon.comでショッピングカートに入れる所まで行ったのですが、結局買わずじまいになっています(^^;

問題はその「きっかけ」で、どうしても思い出せないのです。「耳から官能」のエントリーのコメント欄に、HN・メール・URLと「三つ揃い」を入力する所までは行ったのですが、どうしても「きっかけ」が引っ掛かって支離滅裂な文章になってしまいそうだったので、差し控えた次第です(苦笑)

ヘンリー・ミラーを読んだ
    ↓
「ホキ徳田」をAmazon.comで検索してみた
    ↓
「セクシー音源・オムニバス」絡みで「おすすめ」に表示

と云う流れだったような気がするのですが…。

>格調高いエントリー

常々のご厚誼、本当にに恐縮です。ありがとうございますm(_ _)m
最近はblog用の思索と、毎日のメンタリティが完全に乖離しつつある状態で、実際にアタマの中を覗いてみると、RないしX指定ばかりかも知れません(^^;

>インデックス

私もそろそろ本腰を入れて取りかかりたいのですが、確かにどんなスタイルで纏めるべきか、迷ってしまいますよね。最終的にはマイリストとの互換性を高めた体裁に仕立てたいのですが…。
テンプレートを増やすよりも、ココログにはそちらの拡充を望みたいところです。

Posted by: Tando | Wednesday, February 16, 2005 at 10:21 PM

友人から酒を貰った。”春巴”という酒。その酒を味わいながら、何故か日本語の響きを纏いたいと思い、以前貴兄お奨めの自作自演を聴いた。
その中の太平記、落花の雪を聴いた途端「あ、これだ」と感じた。
 昨年、京都の画廊で見た”原精一”の作品見た瞬間に欲しいと思った。と同時に自分には買う財力は無いと思った。だから値段も聞いていないが、こんなインパクトは久々だった。この感動は筆舌につくしがたい。

Posted by: 在野人 | Saturday, April 23, 2005 at 12:27 AM

>在野人様

「落花の雪」は、もともと太平記の原典ではなく、里見弴の「文章の話」に引かれていたことで知り得た次第です。
七五調による、リズムの優れた日本語の一典型として紹介されていました。

「文章の話」は小学生向きの綴り方指南として書かれたようですが、実際読んでみると、大の大人になっても達し得ないような洞察の鋭さに貫かれています。
未だにたじろいでしまう一冊です。

>原精一

ご覧になった作品は、どのようなものだったのでしょうか。
先日メールを頂戴した秋田義一・辻潤のこと共々、いずれお話を伺いたいと思っています(^-^)

Posted by: Tando | Sunday, April 24, 2005 at 10:30 PM

原さんの自画像だったと思います。
 太平記の俊基朝臣の鎌倉下向の部分を抜粋した「落花の雪」聞く度に泪が零れます。朝臣の運命と、この朗読の良さでしょうね。

 仕事はどうですか?糊口を凌ぐとは大変な事で、糊口を凌ぐと割り切れれば好いのですが、でないとと言うのか他に目指す事が無いと…。

 今夜はNHKのドラマ「魚河岸物語」を見ては涙を流していました。

 生きるとは何でしょうね?


Posted by: 在野人 | Thursday, October 06, 2005 at 11:56 PM

長らくご無沙汰致しております。

頂戴したお便りにも欠礼したままで、心苦しい限りです。
皆様、健やかにお過ごしでしょうか…?

昨今は殊に読書が疎かになっています。
日々邁進、と自らに言い聞かせつつも、大事な何かから、緩やかに遠ざかっているような気がしてなりません。

本当に数ヶ月来、そう遠くないうち、是非ともお会いしたいと念じ続けております!

Posted by: Tando | Friday, October 07, 2005 at 09:30 PM

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