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Tuesday, February 08, 2005

ラザール・ベルマン追悼

本日(2/8)帰宅後、新聞夕刊の訃報欄にて、ロシア出身の傑出したピアニスト、ラザール・ベルマン(Lazar Berman)が、去る2月6日に自宅の在るフィレンツェで亡くなった─との記事を目にしました。
1930年2月26日生まれなので、75歳の誕生日を目前にしての逝去と云うことになります。

わたくし自身はベルマンの演奏について、あまり造詣がありません。手元にあるのはメロディア時代の、リスト「超絶技巧練習曲集」(現在廃盤)と、20世紀ロシア最後の巨匠ピアニスト 5「ラザール・ベルマン」のみです。
正直な所、この2点を聴いた限りでもう事足りたように感じられて、それ以上は見聞を拡げていませんでした。
自ら「私は19世紀の人間であり、ヴィルトゥオーゾと呼ばれるタイプに属している。」と言明していたベルマン。卓越した技巧もさることながら、その、ピアノを目一杯響き渡らせるような演奏スタイルは、確かに現代の演奏家の中にあっては異質の存在でした。

彼はアレクサンドル・ゴリデンヴェイゼル(Alexander Goldenweiser,1875-1961)の門下生です。この偉大な教育者は、ベルマンを殊の外可愛がったようで、他の弟子には絶対に認めないような「弾き崩し」の類も、彼に限っては許容していたと伝わります。
確かに、ベルマンのスタイルは、他の同門の著名ピアニスト達と一線を画しているように感じられます。「異端児」と言ってもよいかも知れません。ゴリデンヴェイゼルにしてみれば、逆にそこが痛快だったのではないでしょうか…?

ただ、上掲した録音から窺うベルマンの姿は、わたくしにしてみれば些か放埒に過ぎるように感じられました。他方で、伝え聞くアントン・ルビンシュテインの如き、巨人的な気配を秘めているかと言うと、どうも違うような気がするのです。

聴き始めた頃には「凄いな、本当の腕っ扱きだ!」と感服したものですが、やがて時が経つに連れて、倦んでしまいました。これはもう、好みの問題としか言いようがありません。

否、「実は違うのかも知れない」と、最近になって考え始めていた所なのです。

ベルマンの実演に接し得た方の多くが、「彼の演奏には、会場全体を隈無く震撼させるような迫力があった」と云う趣旨の指摘をなさっています。それは録音に入る性質の要素であるとは思われません。
つまるところ、録音では、彼の演奏における特定の一面のみが強調されているのではないだろうか…以来ベルマンについては、即断を控え、折を見て更なる音源を探してみよう、そう考えていたのです。

ゴリデンヴェイゼル門下の巨匠は、今やその多くが鬼籍の人となりました。
そんな中、世界的な演奏家として名を馳せたベルマンが存命である、と云う事実は、それだけで何か頼もしく感じられたものです。好悪を越えた大きな「存在感」それ自体を、わたくしは心の一隅で尊んでいました。

今日、その訃報に接して、想像以上のショックを受けています。

この機に際して、先述の「ロシア最後の巨匠ピアニスト」と銘打たれた盤に聴き入っています。
「ああ、やっぱりベルマンだな…」と感じさせるような猛々しい演奏がある一方で、例えばスクリャービンの練習曲op.8-12などは、今の心境に対して、直截に訴求するものがありました。

謹んでご冥福をお祈り致します。
 
 

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Comments

今日、僕も色々サイトを巡回していたら「L.ベルマン死去」という見出しを見つけ、驚きました。

彼のピアニストの中での部類(俗に言うヴィルトゥオーゾタイプ)は僕自身とても好きな方になります。ギレリスの有名な評はさすがに大げさとも思いますが、演奏自体も確かに素晴らしいです。

しかし、愛聴する事はないです。なぜか・・・それは自分なりには分かっています。
「何か」が足りないんです。曖昧で、決定的ではないようですが「何か」がある演奏家と、ない演奏家では僕自身の中での存在感が全然違います。

「何か」が一体何なのか、今の時点では分かりません。分からないというより、言葉で表しがたいです。

前述のことは、簡単に言ってしまえば決定打がないという事です。
しかし・・・本当に生で聴いてみたかった演奏家の一人でした。考えが変わったかもしれません。

長く書いてしまいましたが、この場を借りて、ベルマン氏のご冥福を祈ります。

Posted by: ウィルソン | Tuesday, February 08, 2005 at 08:45 PM

>ウィルソンさん

「うんうん、そうなんだよなあ…」と、至る所で頷きながら、頂戴したコメントを拝読致しました。

>「何か」
>決定打がない

このご指摘、実は記事中で「そのものズバリ」では書けなかった事なんですよ。
心底から同感です。

ライヴではミスタッチも厭わずバリバリ弾きまくる感じのベルマン、ではこの人がベートーヴェンの「熱情」を弾けばアントン・ルビンシュテイン(やはり外しまくりで、バリバリ弾いたと聞きます)のような演奏になるのか…と言えば、そうは思われないんです。
何が足りないんでしょうか…とにかく、技量を上回るだけの訴求力が感じられません。

かと言って、嫌いなピアニストではないんですよね。
不思議だ…(^^;

良い音源は、可能な限りご本人が健在の間に出て来て欲しいものですが、今後の追悼リリースの動向には注目し続けるつもりです。

Posted by: Tando | Tuesday, February 08, 2005 at 09:05 PM

お怒りとの事で、当方、大変驚いています。悪い事をしたつもりはまったく無く、反省・反論の書き込みを求められているとは思いもよりませんでした。また、書き込んだ趣旨はベルマン追悼以外の何者でもなく、誠心誠意、熱意と時間をかけて書かせていただきました。とても素晴らしい記事が書かれている場所ですので、多くの方がここを知り、訪れ、また同好の方たちによって賑わう事となれば、こんなにうれしい事はありません。

Posted by: 伊国車始動不良 | Saturday, February 19, 2005 at 12:29 AM

>お怒りとの事で、当方、大変驚いています。

別段貴方のモチベーションが不純であるとは、私も考えておりません。
実際、貴方のベルマンに対する熱意は、本当に篤実で純粋なものなのであろうと、今でも私は思っています。

私が憤慨している理由につきましては、貴方へ宛てたエントリーの中でも指摘致しましたように、私自身が決して望まない、分限以上の挙動を貴方がなさった点にあるのです。

貴方がどの程度の認識をお持ちであるのかは察しかねますが、殊に「2ちゃんねる」へのURL投稿は、Webサイトなりblogなりの所有者であれば、通常自ら行う事はまずありません。文中でも記した通り、様々なリスクを伴うからです。
また、与り知らぬ場合であっても、「2ちゃんねる」へ自分のURLが転載されている状況を把握したならば、多くの人がぎょっとする事でしょう。中には直接転載先へ名乗り出て、自らもトピックに参加される場合もありますが、それはケースバイケースです。
今の私には到底出来かねます。現況は完全に手に余るものです。

そう云う事を、貴方は、知ると知らずとに拘わらず実際になさったのです。

私の論旨はご理解頂けたでしょうか。

また、ご承知の如きエントリーをアップロードしたのも、あくまでも致し方無き手段としてです。昨日アクセス頂いた時点で一言なり頂戴出来ていればよかったのに…と思います。私のコメントを見落としておられたのですか?

私には、貴方を吊し上げるような意図は決してございません。自分でもこんな文面を掲載せざるを得ない状況が、イヤでイヤでたまりませんでした。
よって、貴方に宛てたエントリーは、釈明を直接頂戴した今、お互いにとっては障害でしかありませんので、削除致します。

>多くの方がここを知り、訪れ、また同好の方たちによ
>って賑わう事となれば、こんなにうれしい事はありま
>せん。

身に余るお心遣いなのですが、だからと申して、やはり私の手に余る挙動を貴方がなさったのは事実です。
仮にも他者が運営しているスペースへの投稿である以上、たとえご自分のお書きになった文面であれ、外部に喧伝する事の可否は、ある程度まで、その投稿先の管理者自身の存在に配慮したものであるべきだと考えます。それが不可能ならば、やはりご自分でblogなりをご開設なさるべきでしょう。私自身がこのblogを開設した発端も、自分で随意に情報発信を行い、それを管理出来る場所が欲しい、と感じた事に多くを因っております。
その点を鑑みると、やはり貴方のなさりように対して、私自身決して愉快な心持ちでは無かった点を、ご理解願います。
そして再三申し上げますが、本件で致命的だったのは、「2ちゃんねる」へのURL転載でした。この事実をもう一度よくご理解頂いた上で、今後は此所に限らず、重々にご用心下さい。
「2ちゃんねる」は、本当に付き合い方の難しいスペースなのです!

ともあれ、本件について、私と致しましてはこれ以上蒸し返したくはありません。申し上げるべき事はお伝え致しましたし、貴方の意思確認も叶いました。

今後につきましては、私からとやかく申し上げることもございません。URL引用とて、決して禁止は致しませんが、私のコンディションから申せば、「2ちゃんねる」での直接リンクは、どうかご遠慮願います。
どうしても、と言う場合には、URL冒頭の"h"を落として下さい。そうすれば、自動リンクにはなりませんので。同所では通例的に定着している方法のようです。

それと、差し出がましいようですが、同所でご自分のメールアドレスを記入なさるのも、あまりに無防備であるとお見受け致しました。万一今後発言なさる折には、他ならぬご自身の為に、お控えになることをお勧め致します。

とまれ、本件につきましては私自身、自省すべき点が多かったと感じています。己の未熟さを改めて自認せざるを得ませんでした。釈明の有無に拘わらず、総じて自己嫌悪だけが残留致しております。
今となっては行き過ぎた点も否定出来ませんので、その旨お詫び申し上げる次第です。
何卒御寛容下さい。

Posted by: Tando | Saturday, February 19, 2005 at 01:37 AM

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