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Monday, May 16, 2005

ギンズブルグのライヴ音源(3)

前回に引き続いて、1957年クリスマスのライヴに話を移します。

まずVol.3-CD1から。
個人的に最大の収穫が、ここに聴かれるバッハのトランスクリプション作品集でした。ギンズブルグによるこの種のレパートリーは、わたくしにとって全く未知の領域です。

もとより技巧的には申し分の無いギンズブルグ。冒頭の「トッカータとフーガ」から、ブゾーニが施したピアニスティックな演奏効果を最大限に発揮しています。しかし、その根底に常在するものは、瞑想的な内観の世界です。繊細に綾なすポリフォニーの美しさは比類がありません。それは、荘重で歓喜に満ちた「前奏曲とフーガ」においても同様です。
「シチリアーノ」と「主イエス・キリストよ、我汝に呼ばわる」は、先述の瞑想的な美しさが一層顕在化した名演と言えるでしょう。過剰に情感を込めずとも、音自体が静かに語りかけてくるようです。
そして、「シャコンヌ」。ブゾーニ、フリエール、ミケランジェリ、ティーポと、様々に魅力的な演奏を聴いてきましたが、今わたくしを捉えて離さないのは、ギンズブルグの演奏です。この作品に対して、ギンズブルグ。言ってみれば、叶わぬ夢が現実となったかのような組み合わせです。
ブゾーニ編曲の妙味に寄り添った劇的な演奏ながら、絶えず切々と訴えかけるような趣はどうでしょう? ずっとこんな演奏が聴きたかったのです。もはやわたくしは、語る言葉を持ちません。

このアルバムはわたくしの終生の宝となることでしょう。


そして、Vol.3-CD2。
プロコフィエフのソナタは、ギンズブルグの珍しい側面に光を当てています。必ずしもシンパシーを抱いていたとは言い難い作曲家に対して、ギンズブルグは古典的な折り目正しさからアプローチしています。それでも、もとより優れた洞察眼と力量を持つピアニストなので、凡百の演奏では太刀打ち出来ない完成度です。
続くスクリャービンは、些か物足り無い演奏です。燐光の如く青白い美しさを放ちながらも、ギンズブルグの演奏は清楚に過ぎます。固有の纏綿たる感性が、スクリャービンでは却って仇となった印象です。
意外なレパートリー、ガーシュインはなかなかの聴き物でした。諧謔と程良いモダニズム、そして物憂気な情緒─。緩やかで懐古的なスゥイングです。

このCDで最も傾聴すべきは、「ドン・ジョヴァンニの回想」かも知れません。技巧的な目覚ましさは言うまでもなく、とにかく全てが美しいのです。既知の演奏を鑑みれば、この作品が美しいなんて、信じられないような心持ちがします。
随所に鏤められたアリアの牧歌的な美しさと、爆発する超絶技巧がもたらすカタルシス。ギンズブルグはスタジオ録音も残していますが、このライヴの方が数段高いテンションに達しています。16分半もある作品ですが、一気呵成に聴かせる力を宿した演奏です。


都合3回の記事を連ねるために、幾度と無くこれらの音源を聴いた結果、わたくしは完全にギンズブルグの虜となってしまいました。

ギンズブルグがどんな難曲を征服しても、その奥底には常に、言い知れぬ哀調がさざ波を立てています。
青銅の肢体と貴婦人の情緒を併せ持つピアニスト─それがギンズブルグです。
 
 

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Comments

楽しく拝読させていただきました。

ギンズブルグは存在だけは知っていたものの聴いた事がなかったピアニストで、店頭に行っても「20世紀の~」シリーズのCDをいつも手にとるんですが、選曲にあまり魅力を感じず、いつもまた今度にしようという状態でした。

しかし今回紹介されているCDは、選曲がかなりツボです。
シャコンヌやらスクリャービンやら・・・。
しかもライヴ!(笑)
クリスマスというのも何か情緒があっていいですね。
早速試聴してみましたが、最初の数秒だけとはいえ驚きました。
特にショパンのマズルカ。
この曲自体大好きですが、久しぶりにドキドキしました。
音のたたずまいに感動です。
長くなってしまいましたが、是非購入してみたいと思います。

ところで、「ロシア・ピアニズム名盤選2」発売まであと1週間程ですね!楽しみです!

Posted by: ウィルソン | Tuesday, May 17, 2005 at 01:10 AM

>ウィルソンさん

ありがとうございます(^-^)
ギンズブルグは現時点で10枚弱保有していましたが、結局今回の3枚に一番感動しました。今まで持ってたのは、とにかくどれもこれも録音条件が悪いんですよね。
「シャコンヌ」は本当に素晴らしい演奏だと思います。音質もまあまあ聴けるレベルで、嬉しい限りです。
試聴の印象が良かったのでしたら、買って損は無いかと思いますよ。
ショパンのマズルカ、書き漏らしていましたが素敵な演奏ですよね。ここういうタイプのピアニストで、ショパンが素晴らしいと言うのは、珍しいのではないでしょうか。

>ロシア・ピアニズム名盤選2

発売日に購入したいのはやまやまなんですが、来月10日締めのクレジット請求が非常にコワイ状態です(苦笑)
本格購入はボーナス期まで持ち越しかも…(^^;

Posted by: Tando | Wednesday, May 18, 2005 at 10:33 PM

 ギンズブルグのVol. 2 が3枚、タワーレコードに出ていますね。もうお聞きになりましたか?
 拝読させていただき、興味津々です。どれか1,2枚買ってみようと思います。
 

Posted by: Pauk | Thursday, November 02, 2006 at 03:54 PM

>Pauk さま

今更のお返事で誠に申し訳ございません。
失礼を承知でお返事させて頂きます。

ギンズブルグのライヴ音源、私も無事揃えました。中抜けしていたVol.2も無事発売され、手元に揃ったCDを至福の心境で愛でております。

遺族の協力も受けながら、こうして少なからぬ量の音源が陽の目を見たこと、嬉しい限りです。
このblogでギンズブルグに触れてからもう随分経ちますが、今でも変わらず大好きなピアニストです。

Posted by: Tando | Thursday, December 28, 2006 at 10:28 PM

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