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Friday, May 13, 2005

ロバート・クラフト

ロバート・クラフト(Robert Craft,1923-)。

ストラヴィンスキー晩年の愛弟子、そして最晩年のシェーンベルクとも親交があった、アメリカの作曲家・指揮者です。殊にストラヴィンスキーの信頼は篤く、その創作にも少なからず影響を及ぼしています。彼による著書「ストラヴィンスキー/友情の日々」(上巻 / 下巻)は、この作曲家を知る上での必須資料です。

その他詳細は公式サイト(英文)に委ねるとして、今回は指揮者としてのクラフトについて少々連ねたいと思います。

録音に聴かれるクラフトのレパートリーは、かなり絞り込まれています。師であるストラヴィンスキー、そしてシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンと言った新ヴィーン楽派の作品、更にジェズアルド、モンテヴェルディ、シュッツ、バッハ、モーツァルトなど…。
現在入手可能なタイトルは、前掲公式サイトのディスコグラフィをご参照下さい。
つい半年程前までは独KOCH INTERNATIONALのストラヴィンスキーとシェーンベルクのシリーズが掲載されていたものの、どうやら最近、同レーベルは完全に活動停止してしまったようです。
その他にCD化された著名な音源としては、グールドと共演したシェーンベルクのピアノ協奏曲(CBS-SONY)があります。

1990年代以降クラフトが行った、ストラヴィンスキーやシェーンベルクの作品録音プロジェクトは、前述KOCH INTERNATIONALとMUSIC MASTERS CLASSICSにて行われたものです。しかし、両者共に現在では廃盤となってしまいました。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。
NAXOSが昨年以降、"ROBERT CRAFT COLLECTION"と銘打って、両者のの音源を続々と再発売し始めたのですから、世の中は分かりません。MUSIC MASTERS CLASSICSから発売の「ペトルーシュカ」と「ナイチンゲール」のカップリング盤を随分と骨折って入手し、「火の鳥」がどうしても手に入らない…と嘆いていた日々が嘘のようです。ありがたいことです。


ところで、指揮者クラフトをどのように評価するかは、微妙な所だと思います。人によっては「とにかく無味乾燥でつまらない」と断ずるかも知れません。
しかし、この「無味乾燥」と言うのも、クラフトの域にまで突き詰めれば、希有な個性たり得るのでは無いでしょうか。
単純に指揮者としてのスキルを問うのであれば、クラフトは極めて手際の良い人です。複雑極まるスコアを彼のように明晰に音化するのは、それだけで大変な素質だと思います。また、起伏やメリハリ、構造感に対するセンスも鋭く、決して無感動で平坦な音楽では無い点、諸々の録音に明らかです。
また、各楽器セクションが極めて硬質な「生の音色」を保って響くのも、クラフトの特徴だと感じます。

ストラヴィンスキー晩年の自作自演に際しては、大半の場合クラフトが下拵えを担当していたと聞き及びますが、それを意識して聴くと、クラフトが指揮するストラヴィンスキー作品からは、自作自演を更に巧くしたような雰囲気が感じられます…あれ?

ともあれ、同時代的な意味での「ストラヴィンスキー直伝の演奏」との箔付けには、さほど希少性を感じません。相伝の極意を云々するまでも無く、ストラヴィンスキーが指揮者に対して最も望んでいたのは、恣意的な解釈の排除であった筈です。
クラフトの即物的な演奏様式は、直弟子としての相伝に終始するものでは無く、本来固有のセンスに拠るところが大であると推察しますが…果たしてどうでしょうか。

取り敢えずこの場で広くお勧めしたいのは、「春の祭典/ミューズの神を率いるアポロ」(KOCH INTERNATIONAL/3-7359-2 H1)と、NAXOSの「火の鳥/ペトルーシュカ」(NAXOS/8.557500)の2点です。ストラヴィンスキーの、いわゆる「3大バレエ」を揃えるチョイスと致しました。
前者はひょっとしたら、遠からずNAXOSから再発売されるかも知れません。後者は探しに探した「火の鳥」1910年完全オリジナル版の録音。

グルーヴを追求するのであれば、世の中にはもっと優れた演奏があるのでしょう。しかし、楽曲の姿を正確・緻密に音化し、かつ訴求力をも備えた演奏は、そうそう聴かれるものではありません。
「春の祭典」など、本当に一分の隙も無く、見事の一言に尽きます。クラフトとロンドン交響楽団との相性は抜群で、作品、指揮者、オケと三位一体の調和を成した、希有な演奏です。
さながら、鍛え抜かれ、磨き上げられた玉鋼の銘刀を目の当たりにする心地がします。
 
「火の鳥」「ペトルーシュカ」も、同質の名演。
これぞ「模範解答」とも言うべき趣を有しています。
とりわけ前者はわたくし個人にとって、現時点での決定盤です。斯様に嫌味のしない、かつ高揚感にも事欠かない演奏は、ついぞ見出せずにいました。
この2作品はフィルハーモニア管との共演、やはり理想的な相性を示していると思います。


ロバート・クラフトは80歳を過ぎた現在も活動を継続しているようです。是非とも実演に接してみたいと願っているのですが、叶わぬ願いでしょうか?
意欲的な招聘元の健闘に望みを繋げます…と、他力を恃んで今回の締めと致します(^^; 
 

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Comments

ロバート・クラフトの記事拝見させて頂きました。基本的な事、まだ存命であることも知り大変ためになりました。まだ、「火の鳥」、「ペトルーシュカ」を聴いただけですが、ほかのバレエ作品なども聴くことにします。ストラヴィンスキーの自作自演も楽しめるので、その他のロバート・クラフトの指揮も気に入るのではないかと思っております。ストラヴィンスキーについては、時間的なデフォルメはあまり好きではないので。

Posted by: nobumassa | Sunday, July 17, 2005 at 12:05 AM

>nobumassa さま

初めまして。
お返事が遅れてしまい、誠に申し訳ありません。
コメントとトラックバックありがとうございました。

>クラフト

時間の経過に伴い、拙文の過褒を感じつつあります。ただ、この人の蒸留水のようなスタイルが、作品との相性次第で強い説得力を持ち得る点、今も信じて疑いません。

クラフトのレパートリーは非常に限られているようですが、プロコフィエフを演奏してくれたら面白いんじゃないかな…等と妄想している次第です(^^)

Posted by: Tando | Tuesday, July 19, 2005 at 01:04 AM

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