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Wednesday, August 10, 2005

フェリックス・モットル頌

存在を確かめていながら、聴く便宜を得られない音源があります。
「死ぬまでにこれだけは聴いておきたい」と希求すればする程、求不得苦は募る一方です。

さて、先頃の事です。わたくしにとって、その象徴とも言い得た音源がCD化されました。

Felix Mottl Plays Wagner~THE WELTE MIGNON MYSTERY VOL.II(2-CD/TACET 135)


このCDを手にした時には、人生の一つの到達点を迎えてしまったような気がして、戦慄すら覚えたものです。

19世紀後半を代表する指揮者、フェリックス・モットル。
1907年、彼がヴェルテ・ミニョンの自動ピアノに録音した、ワーグナー作品の全録音がここに収められています。
この偉大なる指揮者、はた、ワーグナーの最良の使徒に対する思いの丈は、以前にも書き連ねました。

以下、収録曲の一覧です。


ローエングリン~第1幕前奏曲
パルジファル~第1幕前奏曲
トリスタンとイゾルデ~第1幕前奏曲
ローエングリン~婚礼の合唱
ローエングリン~エルザの夢
パルジファル~聖金曜日の音楽


トリスタンとイゾルデ~第2幕の二重唱
ニュルンベルグのマイスタージンガー
~冬の日の静かな炉端で
~第3幕の五重唱
パルジファル~場面転換の音楽


ああ、もはや何をか況や。素晴らしい。
聴くその都度、感動の深さに言葉も浮かびません。

やはり、モットルは極めて優れた資質の指揮者であったのだ、と確信します。

彼のピアノ演奏は、コンサート・ピアニストとしてのそれとは別の意味で傑出したものです。繊細で入念なタッチのコントロールは、むしろオーケストラによる表現へ近接する為の手段として用いられています。ほんの少々の想像力を働かせたなら、モットルが指揮するオーケストラの響きを味わうことが出来るでしょう。

…いいえ、彼のピアノは凡百のオーケストラよりも余程雄弁かも知れません。簡略化されたピアノ譜の中から、「パルジファル」の音楽が、斯くも荘厳に顕現するとは!
まったく、俄には信じ難いことです。

そして、フレーズの一つ一つを丹念に拾い上げ、慈しんだ音造り。決して不格好にも歪にもならず、どこまでも高貴な情感が漂っています。これぞ正しく、19世紀に於ける指揮芸術の真髄です。

「冬の日の静かな炉端で」は以前にもCD化されたことがありましたが、此度のTACETによる優秀な再生によって、見違える程瑞々しく生まれ変わっています。
決して誇張ではなく、このトラックに対しては涙を禁じ得ませんでした。モットルの演奏の、何と歌心に溢れ、輝かしいことでしょうか。

モットルによるピアノ・ロールの数々は、自動演奏ピアノという媒体に遺された、恐らく最も感動的な記録の一つです。それがTACETと言う、望みうる限り最良のレーベルを経て、こうしてCDとして甦ったこと。
所詮は、わたくし個人の過剰な思い入れに過ぎないのかもしれません。でも、ここには奇跡的な巡り合わせを感じるのです。


フェリックス・モットル、わたくしが貴方の芳名を初めて知ってから、はや15年が経とうとしています。
ここに漸く、逢うことが叶いました。
 
 

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Comments

はじめまして、アーベントロートのサイト「 about Abendroth 」(http://www18.ocn.ne.jp/~dirigent/index.html)をやっております境山と申します。

(自分は学生だった頃、京都の北山駅近くに住んでました。今は仙台在住です。)


フェリックス・モットルのこういうCDがあることを、こちらの記事のおかげで初めて知りました。
ありがとうございます。
m(_ _)m

Posted by: 境山 | Wednesday, August 17, 2005 at 08:02 PM

>境山さま

ご来訪誠にありがとうございます!

境山さまのアーベントロートのサイトは、これまで度々拝見致しており、勉強させて頂きました。
殊にフリッツ・シュタインバッハに関する記述は、日本語の資料が少ない中、大変素晴らしい資料だと敬服しております。
拙記事にリンクまで頂戴してしまい、恐悦至極です。

シュタインバッハ、モットルともに、電気録音の時代まで存命しなかったのは返す返す残念なことです。
その点、モットルのピアノ・ロール音源は、その渇を随分と癒してくれました。
末永い愛聴盤となりそうです(^-^)

Posted by: Tando | Friday, August 19, 2005 at 08:24 PM

境山です~、またまたお邪魔致します。
やっとモットルのCDを何度か聴きまして
先程、サイトとは別の日記帳的ブログから
TBさせて頂きました。

シュタインバッハは、録音が残ってないのが
大変惜しいよねー、と「Performing Brahms」で
ウォルター フリッシュ教授も書いておりました、
そういや。
シュタインバッハ→アーベントロート、という
流れがもっと注目浴びると、アーベントロートの
評価もUPするんではないかいな、とよく思う
もので、これはホンマ残念です・・・。

Posted by: 境山 | Tuesday, November 08, 2005 at 06:22 AM

>境山さま

お返事が遅くなってしまいました。長らくの欠礼を平にご容赦下さい。

>モットルのCD

とにかく待たされましたね~(^^;
無事ご入手されたとの由、安心致しました。

>サイトとは別の日記帳的ブログ

私の方からも是非TBさせて頂きたく存じます。
それにしても、本サイトや複数のblogを切り盛りされている方のまめやかさには、心底から敬服致します。
私はこのblog一つでさえままならずにいる、不精者なので…
(-_- ;)

>シュタインバッハ

トスカニーニをして、未だその流儀をモノにできない、と嘆かせたシュタインバッハ、この人のブラームスを録音で聴ければ、どんなにか素晴らしかったろうと思います。
ほぼ同世代でロマンティックな流儀を伝えている指揮者は、マックス・フィードラーあたりでしょうか…?

アーベントロートが1927年にロンドン響と録音した4番も、非常に興味深い音源ですね。私もビダルフの復刻盤で聴きましたが、併録のダムロッシュの2番ともども、作曲者の同時代へと開かれた「窓」として珍重しております。

Posted by: Tando | Tuesday, November 29, 2005 at 01:30 AM

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