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Sunday, September 04, 2005

Ohan Durian

どうやら、アルメニア出身の指揮者らしい、とまでは推察出来た。
手元のCDでは全て"Ogan Durjan"と綴るのだが、さて、どう読もうか。

「全て」─と言っても、僅かに2枚・2曲しか、この人の音源は無いのだけれども…。

1)ショスタコーヴィチ:交響曲第12番 ニ短調 op.112「1917年」ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(PHILIPS 434 171-2)

2)ムソルグスキー:交響詩「禿山の一夜」
ベルリン放送交響楽団
(BERLIN Classics 0032352BC)

本当に、たったこれだけしか無い。
だが、この2曲を以て"Ogan Durjan"の名は、私の心に深く刻まれている。

いずれも1960年代後半に、旧東独で収録された音源だ。何故かカップリングは両盤とも共通して、ヘルベルト・ケーゲルによる演奏。ことに1)は、名演の誉れ高い「ステパン・ラージンの処刑」との抱き合わせとなっている。
これが仇と言うべきか、長らく廃盤ということと相まって、国内のオークションサイトに出ると、しばしば5000円近くまで高騰してしまう。その割には、Durjanによる交響曲への言及は少ない。
ちなみに、2)に併録されているケーゲルの音源は「展覧会の絵」と「だったん人の踊り」なので、ご参考までに。

つくづく訝しいことだが、両盤とも指揮者に関する言及は皆無である。
1960年代に、旧東独のオーケストラを指揮した、アルメニア系と思しき名の指揮者。
本当にそれだけしか、推察のしようがないのだ。

だが、この指揮者の力量の高さは、何より音楽に顕れている。
幾分くすんだ色合いの、きわめて豪壮な演奏。しかし、ただ厚ぼったいだけではなくて、随所で緩急のコントロールが利いている。「禿山の一夜」の、引いては寄せる動感の凄まじさは、騙されたと思って一度聴いてみて欲しい。
ショスタコーヴィチでは、指揮者の恣意が勝ってしまう箇所も少なくない。だが、この迫力はやはり虚仮威しではないと思う。何らかの切迫した衝動無くして、決して生まれない響きだ。

一体、これだけの演奏を聴かせる"Ogan Durjan"とは何者なのか?

試みにWeb上を検索してみるのだけれど、出てくる情報はほぼ全てが上述2音源への言及ばかりである。

暫く頑張ってみて判明したのだが、"Durjan "という綴りは、ドイツ語での書式らしい。たとえばKhachaturian(ハチャトゥリアン)は、ドイツ語では"Chatschaturjan"となる。
従って、"Durjan"も汎用スペルでは"Durian"と綴るのだ。
これを手掛かりに再度検索してみたのだが、やはり結果ははかばかしくない。今度は何がいけないのだろう…?
その解答は、ファーストネームを落として姓のみを、"Armenia"や"Orchestra"のような、関連語句と併せて検索した時に判明した。
この人の名前は"Ohan Durian"と綴るのが、汎用的な形だったのである。

日本語での読み方を当てはめるのは非常に難しいが、最も検索でのヒット率が高かったのは「オガン・ドゥルヤン」だ。
あるいは"Ohan"はそのままローマ字読みで「オハン」かも知れないし、姓も「ドゥリアン」「ドゥリャン」いずれとも知れない。個人的には「オガン・ドゥリャン」が正しいように思うので、ここではそう呼ぼう。

ともあれ、汎用スペルの判明後は、霧が晴れたように様々な情報が導き出された。
…と言うよりも、アルメニア第一のオーケストラである、アルメニア・フィルの公式サイトでも、そう綴られているではないか。

やはりドゥリャンは、アルメニアの出身だった。
「2002年の12月に80歳の誕生日を迎えた」とのニュースが残っていたので、生年は1922年ということになる。
元はイスラエルの生まれで、その後ヨーロッパへ留学、ヘルマン・シェルヘン、ロジェ・デゾルミエール、ジャン・マルティノンらに師事したそうだ。
当初はピアニストとして音楽活動を開始し、1960年から1965年までアルメニア・フィルの主席指揮者、1966年にはアルメニア国立放送交響楽団の設立に参画した。
そして、80歳を過ぎた今も健在であり、現役の指揮者、作曲家として活躍中。アルメニアでは斯界の重鎮として、国民的な尊敬を集めている様子が窺い知れる。
ただ、アルメニアの現政権にあるコチャリャン大統領とは政治的な確執があるようで、亡命者同然の状態でモスクワに在住しているとの由。
ドゥリャンは、政治的なオピニオン・リーダーとしての影響力も相当なものらしい。

その他諸々の英字ニュースも見受けられるのだが、私の拙い英語力を介して誤謬を蔓延するのは非常に忍びない。後は有識の方にお任せしたいと思う。

何にせよ嬉しいのは、これだけの力量と個性を有する指揮者が健在で、更には現役で活動を続けているという事実だ。
先述2点を除いて、相変わらず音源の情報は見付からないけれど、何かの拍子に出てくる機会もあるだろう。更に高望みをすれば、実演に接する機会だってあるかもしれない。
いずれにせよ、それも紹介の機運が高まってこそなので、とりあえず現在でも入手が比較的容易な「禿山の一夜」の名演を、改めて推しておきたい。

ここを読む限り、オガン・ドゥリャンはベートーヴェンの交響曲全集を録音しているらしいのだが…。
一体どんな演奏やら、もはや私の想像力の範疇を越えた音源だ。
これは絶対に聴いてみたいと思う。

また一つ、浮き世に未練が増えてしまった(笑)

つくづく趣味は尊いです。
 

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Comments

はじめまして。
最近、偶然こちらのブログに出会い、楽しく読ませていただいています。

Ogan (Ohan) Durian (Durjan)という指揮者 についてはよく知らないのですが、Ohan という名前はアルメニアはよくあるもので、アルメニア文字をローマ字に翻字すると、やはり普通はOgan ではなく、Ohan になるようです。

それがなぜ Ogan と書かれることがあるかというと、それはロシア語を経由しているからだと思います。ロシア語には h にあたる音素がないために、普通は音声的に近い g の音を当てます。例えば、「ハムレット」、「ヘーゲル」はロシア語では「ガムレット」、「ゲーゲリ」になります。そして、Ohan も実際ロシア語ではОган(Ogan)と綴られているようです。アルメニア人の情報はロシア語文献から入ってくることが多いので、ロシア語表記をローマ字に直してOganと書かれることも多いのでしょう。

Posted by: Takahashi | Tuesday, September 13, 2005 at 12:23 AM

>Takahashiさま

はじめまして、ご来訪誠にありがとうございます。

ピアニストの"Neuhaus"が「ネイガウス」になる所から、ロシア語では"g"が"h"になるパターンがあるのかな…とは、なんとなく察していたのですが …。
丁重なご教示をいただいて、漸く謎が氷解しました。
ありがとうございました。

また、Takahashiさまのサイト、blogを大変興味深く拝読致しました。特にロシアのマイナー作曲家の特集などは、連ねられた名を見るだけでも胸躍る心地です。
今後とも繁く通わせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します。

Posted by: Tando | Tuesday, September 13, 2005 at 09:42 AM

はげ山注文しちゃいました。
後、手に入れる方法教えて下さい。orz

Posted by: 河野聡一 | Monday, December 17, 2007 at 08:46 PM

>河野聡一さま

はじめまして。
どうやらドゥリャンの音源は、本人がプライベートな形で頒布を行っているようです。
一時期、やり手のバイヤーが仕入れていたという状況はあるようですが、それも現在可能かどうかは分かりません。
私自身も未だ「はげ山」とショスタコーヴィチの12番以外は聴くことが叶わずにおります。
12番はヤフーオークションや海外Amazonのマーケットプレイスに時々出るので、プレミアムも勘案すると4-5000円もあれば手に入るのではないでしょうか。

Posted by: Tando | Saturday, April 05, 2008 at 10:48 PM

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