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Saturday, September 03, 2005

エミン・ハチャトゥリアン

エミン・ハチャトゥリアン(Emin Khachaturian,1930-2000)。
数多の音楽家を輩出した、ハチャトゥリアン一族の一人。この人は、高名な作曲家アラム・ハチャトゥリアンの甥に当たるそうだ。
モスクワ音楽院でレフ・オボーリンにピアノを、アレクサンドル・ガウクに指揮を学んでおり、1957年以来、指揮者としての活動を始めたとの由。

最近になって、随分と頑張ってこの人の音源を集めた。
もっとも、CD化されたものに限られているのだけれども…。
とまれ、その道程にも一区切りが付いたので、洗いざらい総括してしまおうと思う。

1)リスト:交響詩「祭典の響き」 S.101
ソヴィエト国立文化省交響楽団
(AUDIOPHILE CLASSICS APL 101.533)

2)プロコフィエフ:劇音楽「ハムレット」 op.70bis
ソヴィエト国立文化省交響楽団/E.デフ=ドンスカーヤ(sop)/S.バルコフ(bar)
(CONSONANCE 81-5005)

3)A.ハチャトゥリアン:ピアノ協奏曲 変ニ長調
ソヴィエト国立交響楽団/M.ヴォスクレセンスキー(p)
(AUDIOPHILE CLASSICS APL 101.516)

4)ショスタコーヴィチ:バレエ組曲第1&2番
ソヴィエト国立交響楽団
(Venezia CDVE03220)

5)エシュパイ:2幕のバレエ「環-黙示録」("A Circle"- Apocalypse)
モスクワ放送交響楽団
(Albany TROY425)

6)B.チャイコフスキー:映画音楽「アイボリト66」/「バルザミノフの結婚」
ソヴィエト国立キネマトグラフィ交響楽団・合唱団
(boheme CDBMR908085)

7)シュニトケ:映画音楽「知られざる俳優の物語」/「スポーツ、スポーツ、スポーツ」
「ロマノフ王朝の最期」(Agony)/「ある架空の劇の為の音楽」

ソヴィエト国立キネマトグラフィ交響楽団
(露OLYMPIA MKM126)


こうして通観してみると、エミン・ハチャトゥリアンが関与するスタンスは、クラシックとも映画音楽ともつかないのが面白い。
殊に5)6)7)に挙げた作品群は、ジャズやポップスの要素が色濃く混淆されている。シンフォニックでシリアスな音楽を想定して身構えていると、大いに面食らう場面があるだろう。
エシュパイの「環-黙示録」5)などは、冒頭にいきなりラヴェルの「ラ・ヴァルス」の引用があったかと思うと、続くのはハープシコードとフルートによる古雅なメヌエット。更にその後には、ピアノ・ソロとストリングス、そしてドラム・セットとギター、ブラスが加わった、フュージョンそのもののサウンドが登場する。曲自体も凄いけれど、それを見事に取り捌くエミン・ハチャトゥリアンの技量は、正しく職人芸そのものと言えるだろう。
そう、エミン・ハチャトゥリアンの演奏は、コステラネッツやモートン・グールドに見られるような上質の職人芸だ。そして、彼はそれをソヴィエトでやった。あのパワフルな、世界中どこを探してもソヴィエトにしかない、重量級のオケを駆使して。

1)-4)に挙げたようなシリアスな作品群でも、彼のセンスの良さは光っている。演奏家としての素地が良いので、さすがにどの作品も手堅い仕上がりだ。更に第一級の名演を求める向きはあるだろうけれど、エミン・ハチャトゥリアンの演奏は、力強く色彩的な音響に身を委ねているだけでも愉しい。

関心を持たれた向きは、早速手当たり次第に買い求めて欲しいと思う。どれもこれも、手を尽くせばまだギリギリで入手が可能だ。

最も入手が容易なのは恐らく4)で、これは大手外資系のCD店なら大抵在庫があるだろうし、そうでなくとも同系統の通販サイトで発注すれば数日内に手元へ届く筈だ。エミン・ハチャトゥリアンの音源に限らず、カップリングのショスタコーヴィチによる管弦楽小品集(全てロジェストヴェンスキー指揮)も出色の完成度なので、まず手始めに入手しておいて損は無い。

逆に最も入手が危ういのは、レーベル自体が既に消失している、2)のプロコフィエフだろうか。ただ、これも最近になって何処かに眠っていたデッドストック品が国内に入って来ているようなので、あきらめずにお探しになることを勧めたい。Amazon-USAのマーケットプレイスなどでも、まだ在庫がちらほらと見受けられる。20分程度の組曲だが、逸するには惜しい作品だ。ショスタコーヴィチによる同題作品(劇附随音楽と映画音楽が存在する)と比較して楽しめば、興趣が増すことだろう。

AUDIOPHILE CLASSICSの膨大なロシア音源CDは存亡が判然としない状態だが、国内でも幾つかの通販サイトに発注をかければ、どうにか入荷するようだ。殊にHMVはかなりの高確率で仕入れてくれる。1)はアルヴィド・ヤンソンス指揮の交響詩「タッソー」、ゲンナジー・チェルカーソフ指揮の「ハンガリア狂詩曲第12番」がカップリングされており、私の如く、旧ソ連の音源を渉猟する者にとっては非常にお買い得な逸品。

それにもましてお勧めしたいのは、3)のピアノ協奏曲だ。カップリングはカレン・ハチャトゥリアン(彼もアラム・ハチャトゥリアンの甥で、作曲家として高名。)指揮による「仮面舞踏会」組曲の名演。双方共に傾聴に値する好企画盤と言えるだろう。

残る5)6)7)は、映画音楽か、それに近いスタンスの作品だ。
エシュパイのバレエ5)については、前述の通り。混沌そのものの如き非常に面白い作品なので、ご関心の向きには一聴をお勧めしたい。Albanyは国内に代理店があるので、気長に待てば入荷するのではないかと思う。

ボリス・チャイコフスキーの映画音楽6)は、正直言って、現時点では受け止めかねている。この作曲家が絶対音楽で見せている緻密で晦渋な作風とはかけ離れた、あっけらかんとしたサウンドに戸惑いを禁じ得ない。だが、ここでもエミン・ハチャトゥリアンの仕事は手堅い。

7)は2003年のリリースながら、残念ながらなかなか日本に届いて来ない。ともあれ、当記事で挙げた中で、私が今最も心惹かれているのはこの音源だ。
シュニトケの作品としては手すさびの部類に入るのだろうけど、シュニトケだからこそ、こういう音楽が書けたのだと思う。そして、エミン・ハチャトゥリアンのシンパシーに溢れた音造りは、掛け値無しに素晴らしい。「ロマノフ王朝の最後」に至っては、割れ気味の痩せた録音さえもが、冷たく澱んだ情趣を醸すことに一役買っている。私は映画自体を観ていない(最近国内でもDVD化されたそうだ)けれども、音楽だけでもう充分過ぎるほど感情移入してしまっている。


かくして、一人の指揮者への関心から、図らずも随分と多岐に及ぶ作品を聴く仕儀となった。
入手可能な音源の限られている演奏家にはままある現象だけれど、ことエミン・ハチャトゥリアンについては、出逢えて良かったものばかりだと感じている。それは偏に、彼自身の確かな技量、表現力に依る所が大きい。

健在であれば今年(2005年)で75歳だが、残念ながら既に鬼籍の人だという。

嗚呼惜しき哉。
 
 

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