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Thursday, October 13, 2005

坪内逍遙の熱演に脱帽

◆よみがえる自作朗読の世界~北原白秋、与謝野晶子、堀口大學ほか~(日本コロムビア/COCP-33360)

「だがっき」と「おと」の庵のサンタパパ様から、トラックバックと文中リンクを頂戴したことで、初めてリリースを知り得てはや1ヶ月。
ようやっと購入した次第である。

このCDは、以前の拙blogのエントリー「落花の雪」─ふたたび、美しい日本語中で紹介した「晶子/朔太郎/春夫/白秋 他 自作朗読の世界」(日本コロムビア/COCF-15290)に、坪内逍遙の自訳朗読「ハムレット生死疑問独白の場」を追加して、仕様を改めたもの。
佐藤春夫の自作詩朗読と、北原白秋の短歌朗詠12首の計3トラックが新ヴァージョンでは省略されているので、どちらを持つべきかは悩ましい所だ。或いは、旧ヴァージョンCDを持つ人間の心証に配慮した措置なのだろうか。
とまれ、私の手元には両者共に揃う仕儀と相成った。

私個人の買い方としては、坪内逍遙ただ一人が目当てとなった恰好だが、これがすこぶるつきの熱演で、思わず聴き惚れてしまった。
ハムレットとオフェーリア、二人の掛け合いが逍遙一人によって演じられるのだが、兎にも角にも、実に巧いのである。
以前に僅かばかり聴き得たのは、丁度オフェーリアの声色の部分だったのだが、これがいけなかった。昔気質の文士が講談調に、お涙頂戴の愁嘆場を演じているかの如き印象を持ったものの、大変な誤解であった。聴き入りながらただただ不見識に恥じ入るばかり。

パフォーマンスとしての質を問うならば、逍遙の朗読は他の文人達とは別次元の高みにある。
抑揚、語気、間の取り方。
悉くが、完全に玄人のそれだ。更に玄人は玄人でも、限られた者しか持ち得ない風格を纏っている。
逍遙は安政年間の生まれだが、その語り口の鮮やかさにも驚く。現代演劇の礎は、既にここで完成されていると言って差し支えない。
種板の保存状態が余程良かったものか、息遣いをも具に伝える、生々しい音質が、驚きに一層の拍車をかける。

何よりも逍遙は声が良い。
正しく、語り、聴かせるための、深い、声である。
敢えて似た声質を挙げるなら、声優の大塚周夫に近い。
実にシブい声だ。

こうして文面を連ねながらも、繰り返し繰り返し聴いているのだが…つくづく、巧いなあ。
極めてマルチな文化人たる実像が偲ばれる、またと無いよすがと言えるだろう。
早稲田大学が演劇博物館を建て、偉業を顕彰したのも、さもありなん。

全く以て、恐れ入りました。
 
 

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Comments

第2弾の日記にコメしようか迷ったけれど逍遥ネタなのでこちらに。
糸魚川市は相馬御風の生誕と没地(っていう言葉あったけ?)なのですが、相馬御風の遺品がたくさん残されています。20年近く前に地元青年会議所に属していたとき、その遺品の中から100枚ほどのSPレコードを発見し、復刻作業を事業化して行いました。(研究室の復刻機材と同じものを使用)
御風が作詞した校歌や童謡、新民謡などのレコードや意外にもクラシック音楽ものがありましたが、その中に坪内逍遥の朗読SPのアルバム入りセットもありました。逍遥の薫陶を受けながら早稲田大学校歌の作詞を行ったり、文芸協会や芸術座に参画した御風ならではの遺品に、こんなものがちゃんと残されていたことにも驚きながら作業しました。復刻しながらTandoさんがご指摘されたように、こんな時期にすでに私たちが新劇というものにイメージする語り口が完成されていたことに驚きました。
すさまじい芸の気迫です。こういう基盤を醸したのはやはり江戸という世界に名だたる文化都市なんでしょうね。
また、私財を投じて演劇にかけた逍遥の意気込みは半端ではなかったことがSP録音ながら幸いな状態で残された音声からほとばしりでいています。こんな逍遥と直接の師である抱月との確執の間にあって、若い御風の苦悩は半端じゃなかったと思いました。

Posted by: Sonore | Friday, February 20, 2009 at 06:28 PM

>Sonoreさま

コメントありがとうございます。
御風のレコードコレクション、興味深いですね。そして、逍遥の語り口にはやっぱり感銘を受けられたのですね、Sonoreさんも。
音声が残ったのは後世の我々にとって幸せなことだったとしか言いようがありません。
しかし日本はこうしたマテリアルの復刻がまだまだ進んでいませんね。維新元勲や文人といった人々の中には江戸時代の生まれの様々な地方出身者が音声録音を遺しているのですから、それを是非比較聴取してみたいものです。
 

Posted by: Tando | Wednesday, February 25, 2009 at 11:09 PM

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