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Saturday, December 24, 2005

ルドヴィート・ライテル

ルドヴィート・ライテル(or リュドヴィート・ライテール/Ludovit Rajter/1906-2000)は、スロヴァキア出身の指揮者。
「知る人ぞ知る」存在と言って差し支えないだろう。

ライテルはクレメンス・クラウスに指揮法を、フランツ・シュミット、ヨーゼフ・マルクス、エルネー・フォン=ドホナーニに作曲を師事している。当初はハンガリーで指揮者としての活動を開始。後に祖国に戻って、ヴァーツラフ・ターリヒと共にスロヴァキア・フィルの創立(1949年)にも参画している。

最近になって、ライテルの音源を続けざまに入手する便宜があった。なるべく感銘の鮮やかな間に、記事にまとめておこうと思う。

手元にある音源は以下の通り。

1)ツェムリンスキー:交響曲第1番
 (香港Naxos 8.557008)
2)フランツ・シュミット:交響曲全集
 (チェコGZ L1 0122-2 034/4CD)
3)ブラームス:交響曲第1番/悲劇的序曲/大学祝典序曲
 (カナダCDM 9153-2)
4)同    :交響曲第2番/同第3番
 (カナダCDM 9154-2)
5)同    :交響曲第4番/ハイドンの主題による変奏曲
 (カナダCDM 9155-2)

○スロヴァキア放送ブラティスラヴァ交響楽団
 (CD1,CD2,悲劇的序曲,大学祝典序曲,ハイドンの主題による変奏曲)
○スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団
 (CD3~5,各交響曲)

順序立てて列挙してあるが、これは奇しくも入手した順番でもある。

目下のところ最も入手が容易なのは、ツェムリンスキーの交響曲第1番だろう。
これは日本語の帯付きで、Naxosの扱いがある店舗なら何処ででも購入出来る。ただ、必ずしもメジャーな作品ではないため、指揮者の真価を窺い知るには、些か敷居が高い感も否めない。殊にこの交響曲第1番は作曲家若書きの作品であり、尚更その傾向が先んじる。しかしながら、実際ライテルの手際は、作品自体の価値をも凌駕しかねない程の優れたものなのである。
それにしてもナクソス(≒マルコ・ポーロ)は、このライテルや、シマノフスキでのストリージャ(ストリヤ)など、隠れた「巨匠」を起用していることがあって、時折驚かされる。
ストリージャについても、いずれ記事に起こす機会を期したい。

続くは、フランツ・シュミットの交響曲全集。
作曲家直伝にして、デジタル録音という感動のドキュメントだ。
かつて別のレーベルで分売されていたのが廃盤になって、その後GZから全集の体裁で再発されたらしい。私はusedで入手したため、これが現役盤か否かの正確な状況は把握していない。ただ、GZは東武トレーディングが輸入代理店となっているから、取引のある店舗なら入荷があるかもしれない。
フランツ・シュミットの交響曲は、ロマン派が終末期を迎えて冷え込んだ時期に咲いた、さながら「十月桜」のようだ。特に初期のものは、シューマンの骨格を以てブルックナーに追従したような趣がある。
一番面白く聴けたのは、1934年に書かれた最後の交響曲、第4番だ。シュトラウスともプフィッツナーとも異なった、ロマン派ともモダニズムともつかない爛熟の果実である。初演の指揮者が、かのオズヴァルト・カバスタだというのも印象深い。
カバスタもまた、シュミットとマルクスに師事しており、ライテルとは同門の弟子ということになる。
直弟子ライテルの演奏は、作品の骨格よりは雰囲気に主眼を据えた演奏となっている。シュミットの巧緻な和声を窺い知るには、更に上を望む向きもあるだろう。しかし、同時代的な感性で成された演奏が、こうして良好な音質で聴かれる意義を尊びたい。

そして、ブラームスの交響曲全集。
個人的には、一連の音源の中で最大の収穫であった。
スロヴァキア・フィルは、いかにも鄙びた音色のオーケストラだ。ここ一番という時に力の抜けるような音を出してしまうこともあるが、指揮者の技量と意気込みが一切を救っている。木目の詰まった良材のような質感は、かのターリヒを想起させるものである。
私にとってターリヒは、殊の外思い入れの強い指揮者だ。彼がチェコ・フィルと共にブラームスの交響曲全集を残さなかったのを、何よりも痛惜している。しかし、このライテルによる全集は、その渇を癒すに値する名演揃いだ。第1番、第4番に聴かれる覇気と、節度ある情感。そして第2番の牧歌的な叙情味。
決して好事家の過褒ではない筈だ。
ただ、第3番だけは致命的な編集ミスがあって、終楽章のコーダがごっそりと欠落しているのである。全く以てひどい話で、指揮者の名誉のためにも、正しい形で発売されるまでは評価を差し控えたい。
ちなみにこのブラームス交響曲全集、1枚あたりの価格が$5を割る。演奏の素晴らしさを思えばタダみたいなものだ。
この際だから、Naxosに全て引き取って貰うわけにはいかないだろうか? そして、交響曲第3番の編集ミスも是正して欲しい。
カナダCDMから発売されている3枚は、米Amazonで取り扱いがある(但しusedも含む)ようだ。

しかしながら、このライテル、2000年まで存命であったとは…。

2000年時分の私は、「イリヤ・ムーシンもパウル・ザッヒャーも亡くなったし、ロザンタールも、Naxosに録音した『パリの喜び』が仕事の仕納めだったようだ。いよいよ朝比奈隆が西暦一桁最後の牙城か…。」などということを考えていた筈だ。
ライテルという指揮者とは、同時代を生きた実感が全くない。知らないというのはつくづく勿体ないものである。

上述の音源は、殆どが録音年不明で、Naxosのツェムリンスキーだけが辛うじて1989年12月、ブラティスラヴァでの録音とクレジットされている。
少なくとも80歳を過ぎた頃までは、現役だったようだ。
 
 

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