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Monday, June 19, 2006

マリヤ・ガンバリヤン

RUSSIAN PIANO SCHOOL/Maria Gambaryan
(RCD 16299)


ベートーヴェン:
ピアノソナタ第11番ト長調 op.22「大ソナタ」

シューベルト/リスト編曲:
「辻音楽師」~歌曲集「冬の旅」より
「糸を紡ぐグレートヒェン」

シューマン:
クララ・ヴィークの主題による変奏曲 op.14
クライスレリアーナ op.16

ピアノ:マリヤ・ガンバリヤン

録音:1971年(シューマン『クララ・ヴィーク…』)
   :1972年(シューベルト/リスト)
   :1982年(シューマン『クライスレリアーナ』)
   :1984年(ベートーヴェン)

チェコRCD” RUSSIAN PIANO SCHOOL”シリーズ中の一枚。
このシリーズではゲンリヒ・ネイガウス、フェインベルグやユーディナ、フリエールのような重鎮が復刻される一方、ユーリー・ムラヴリョフ(ムラフリョフorムラヴレフ)や、このガンバリヤン(ガンバリアン)のような、「知る人ぞ知る」ピアニストも含まれており、大変興味深い。

真っ先に我々日本人の目を惹起するのは、「ガンバリヤン」というその名前。いかにもバイタリティに満ち溢れていそうだ。
次いでジャケットに用いられた写真から伺われる、エキゾチックなその風貌、服装。
うーん、一体どんな演奏をする人なんだろう。

実はこのCD、足掛け3年がかりで入手を試みたものの、振られっぱなしだった。Amazon.comで入荷しなかったのがケチの付き始め、その後も方々で、折が合わず流されてしまった。こうなると私の方でも、そもそもの動機が興味本位に近かったこともあって、段々と熱意が薄れてゆく。
やがて月日は流れ、先般増補を経て再版された「ロシアピアニズム」(佐藤泰一/ヤングトゥリープレス)のページを繰っていると、ガンバリヤンに関する記述が目に留まった。文面から察するに、どうやら相当優れたピアニストらしい。
再び興が湧いて、やはり演奏を聴いてみたい、と思った。

この手のロシア系CDについては、Web上で「在庫あり」の扱いとなっていれば、ほぼ100%の確率で品物を手配してくれる、たのもしきRussian DVD.comに、早速発注してみた。
それが、先日手元に届いた次第。

ようやくその演奏の片鱗に接した感想は、期待以上と言ってよいものだった。
技術的にはがっちりと鍛えられた、力強いタッチの持ち主である。どのパッセージでもくっきりと音色が冴え渡るので、ブラインド・テストに供されたりすると、女性ピアニストとは判じがたいかもしれない。
でも、決して粗雑なことはしない。だから、ベートーヴェンの「大ソナタ」などは、聴いていて、まず感覚的に心地よい演奏だ。「ああ、ベートーヴェンが書いたことがちゃんと音になっている」、そんな安心感に身を委ねられるのだ。

シューベルトの歌曲は、その陰翳の明瞭さ故に、極めて深刻な音楽として姿を現す。「辻音楽師」においてたゆたう、どうにも救われぬ雰囲気、「グレートヒェン」の不吉な美しさ。
「ロシア・ピアニズム」と一括りされる流派では、リストの編曲によるシューベルトの歌曲を好んで弾く人々が少なくない。そして、昔々から変わることなく、優れた演奏はみな、ぞっとするくらい陰鬱だ。ソフロニツキー、ギンズブルグ、グリンベルグ、ボシュニアコーヴィチ…ガンバリヤンの演奏もまた然り。楽想の中に潜む同じものが、彼らを惹き付けてきたのだろうか。

更にシューマンの作品が、期待に違わず素晴らしい演奏だ。
「クララ・ヴィークの主題による変奏曲」、こんなにも劇的な作品だっただろうかと、はっとさせられた。
そして、「クライスレリアーナ」。かくも高水準の演奏を突如差し出されると、従来聴いてきたものとの対比に戸惑ってしまう。狂奔する情念、詩的な表現力のいずれにおいても隙のない演奏。
アルバム全体を通して聴いた上で、演奏者の女性的な情緒を感じさせられたのは、何よりもこの作品だった。折々現れる美しい表情に、思わず息を呑む。
終盤の高潮する楽想を前にしても、怯むことがない。至難なバッソ・オスティナートの表現力も見事の一言に尽きる。

はたして、堂々たる名手である。
総じて音質も良好であり、未だ知らぬピアニストとの恵まれた邂逅となった。
他の更なる音源への期待も高まる。


◆マリヤ・ガンバリヤン(マリア・ガンバリアン/ Maria Gambaryan/1925-)

アルメニアの首都エレバンに生まれる。モスクワ音楽院でアブラム・シャツケスに学んだ後、コンスタンチン・イグムノフのクラスに入り、その死(1948年)まで師事した。
その後は演奏・教職ともに活躍を重ね、過去に来日したこともあるらしい。
  
  

  

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Comments

マリア・ガンバリアンで検索しておりましたらこちらにたどりつきました。もう10年以上前になりますが、御茶ノ水のカザルスホールでのコンサートを聴きました。アルメニア大地震の際に日本の支援があったそうで、その返礼としての来日であったようです。意外と小柄な方でにこやかな表情が印象的でした。ショパンってこういうもんなんだなぁ、と認識を新たにしたことも思い出深いです。

Posted by: MID | Tuesday, November 14, 2006 at 07:27 PM

>MID さま

先般はありがとうございました。
改めてこちらでもお返事をさせて頂きたく存じます。
長きに渡る欠礼、誠に申し訳ありません。

ガンバリヤンの貴重なエピソードありがとうございます!
実演を聴かれたとは、何と羨ましい話なのでしょう…!
ショパン、聴いてみたいものです、本当に。

このエントリーで取り上げた「クライスレリアーナ」、今ではすっかり手元の最上位に遇しております。
これは名演ですね!
 

Posted by: Tando | Thursday, December 28, 2006 at 10:32 PM

実は私、マリヤ・ガンバリヤン来日のときに友人と楽屋まで伺ったんです。
その時は高校生で、せっかくだから、とそんなすごい人だとは知らず他のファンの方たちと一緒に勢いで行ったようなものだったのですが。
最近になって、一生の内で『一期一会』というのはあるんだな、と感じるのでした。
出会いの希少さ、って過ぎ去ってから知るものなのかもしれませんけれども。

Posted by: MID | Tuesday, January 23, 2007 at 10:27 PM

>MIDさま

>楽屋まで伺った

なんと…そうだったんですか(@-@;)
羨ましいとしか申しようがありません。
本当にそれは「一期一会」ですね!

日本にも相当ファンがいらっしゃるようですが、なかなか音源が手に入らないのは残念です。
ピアノに限らず、チェンバロの演奏にも長けていらっしゃるとかで…まだまだ聴いてみたいです。

Posted by: Tando | Wednesday, January 31, 2007 at 10:24 PM

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