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Wednesday, June 14, 2006

SONY CLASSICALのアコースティックSP復刻CD

現存最古の歴史を誇るレコード会社は、ノース・アメリカン・フォノグラフ社(1888年創立)→コロンビア・フォノグラフ社の流れを汲むCBS(現Sony)なのである。実はEMIやドイツ・グラモフォン、RCAよりも更に古い歴史を誇っている。

その割に、(特にクラシック音楽愛好家にとって)Sonyというレーベルは歴史的音源の「蔵元」というイメージから程遠いように感じられる。このレーベルから復刻されるアナログ期の音源を挙げるなら、代表的なアーティストはワルター、ホロヴィッツ、グレン・グールド。もう少し古い時期では、せいぜいミトロプーロスと言った所だろうか。戦前まで遡るものは、ごく稀である。

EMI、グラモフォン、RCAといった競合レーベルは、所蔵する歴史的音源を折に触れて復刻しているので、その沿革や接触のあったアーティストのイメージも掴みやすい。
他方、現Sonyはと言うと、とにかくその種の復刻が少ない。120年近い歴史の蓄積は、一体、今何処に眠っているのやら…?
こんな状況だから、Sonyが復刻したアコースティック録音(機械録音)のCDともなると、却って違和感を覚えてしまうのだ。

さて、今より遡ること10年前、1996年に一度、実際にそんなCDが発売されている。
“THE MASTERWORKS HERITAGE SERIES”と銘打った、名盤・稀少音源復刻シリーズの一環で、”ACOUSTIC ERA(1900-1925)”とカテゴライズされた2点のCDが、それだ。

うち1点はウジェーヌ・イザイの全ソロ録音と、彼がシンシナティ交響楽団を指揮した管弦楽録音を数曲収録したもの。そして、もう1点が”The 1903 Grand Opera Series”と題された、2枚組の声楽音源アンソロジーである。
イザイの素晴らしさもさることながら、後者”Grand Opera Series”は、全く以て類い希なる快挙と言って良い。

1902年、エンリコ・カルーソーの録音を皮切りに、G&T社は声楽家のレコードにおいて目覚ましい成果を挙げた。対抗する形で、翌1903年に米コロンビア社も大がかりなプロジェクトを実行に移す。それが”GRAND OPERA RECORDS”と銘打った、一連の声楽録音シリーズなのである。
多額の資金を投入して、当時メトロポリタン歌劇場の第一線で活躍していた歌手を囲い込んだこのシリーズ、後世の愛好家を瞠目させる豪華さを誇っている。
その顔ぶれは、下記の通り。

ジュゼッペ・カンパナーリ(Giuseppe Campanari/Br/1855-1927)
マルセラ・ゼンブリヒ(Marcella Sembrich/Sop/1858-1935)
エドゥアール・ド=レスケ(Edouard de Reszke/Bs/1853-1917)
スザンヌ・アダムス(Suzanne Adams/Sop/1872-1953)
シャルル・ギリベール(Charles Gilibert/Br/1866-1910)
エルネスティーネ・シューマン=ハインク(Ernestine Schumann-Heink/A/1861-1936)
アントニオ・スコッティ(Antonio Scotti/Br/1866-1936)
リリアン・ブラウヴェルト(Lillian Blauvelt/Sop/1873-1947)
フランシスコ=オーギュスタン・ニュイボ(Francisco Augustin Nuibo/T/1874-1948)
マルセル・ジュルネ(Marcel Journet/Bs/1867-1933)
アントン・ファン=ローイ(Anton van Rooy/Br/1870-1932)
ヴィットリオ・アリモンディ(Vittorio Arimondi/1861-1928)
エドアルド・カステリャーノ(Edoardo Castellano/T/1871-1918?)


初期投資の時点で既に莫大な金額を計上したため、コロンビア社ではこのプロジェクトを早々に不採算事業として打ち切ってしまった。長期的に見れば大変惜しまれる、いわば「路線の見誤り」なのだが、何はともあれ音源は残された。
殊に白眉と言えるのが、エドゥアール・ド=レスケによる3曲4面の録音である。伝説的なテノール歌手ジャン・ド=レスケの実弟にして、自身も類い希なるこのバス歌手は、以後正規の録音は一切遺さなかった。
Sonyによる復刻CDでは、各歌手のオルタネイト・テイクを含む、このシリーズに属する全音源が網羅されている。

なんだ、Sonyだって、ちゃんと古い音源も持ってるんじゃないか。業界最古参の面目躍如たる好企画と言えるだろう。

往時のカタログやレーベルの雰囲気をそのままに復刻した装幀も、実に洒落ている。内容を云々する以前に、これだけでいかにも「よいもの」としての有り難みが感じられる。

そして、肝心の音質、これが大変良い。ノイズ・リダクションは原音を損なわない範囲にとどめられている。音の「芯」がしっかりと捉えられているのだ。それでいてノイズに伴う耳当たりは絶妙に柔らかく整えてあるので、聴いていて疲れることも少ない。不自然な残響附加など、皆無に等しい。実に素直で、良質な復刻なのである。
同様のことは、イザイの復刻盤についても言える。ほとんど奇跡的なまでに良好な音質だ。一般的なAV機器でこの音質を再生出来ること自体、驚異と言って良い。

どうやらSonyは、ごく古い時代の音源に対しても、凄いポテンシャルを秘めたレーベルのようだ。音質がよろしくないと言われている、フリートハイムやブゾーニが演奏したアコースティック時代のピアノ録音も、実は嘘みたいに良い音での復刻が出来たりするんじゃないかしら?
同じような音源ばかり手を変え品を変え繰り出すのは程々にして、こういう仕事にも本家本元としてやる気を出して欲しいものである。


ところで、Sonyの場合、原盤はどのような状態で残っているのだろう。やはり第一世代のものは廃棄されて、全てテープに移行しているのだろうか。
そうだとすれば、上述2点のCDを聴く限り、本当に素直な音質で保存されたものだと感心する。あのレーベル、このレーベルのやってしまったことと言ったら、もう取り返しが…(以下略)。

それとも、板探し・板起こしで逐一復刻したのだろうか?
実態が表に出にくいレーベルであるだけに、興味は尽きない。
  
  
 

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Comments

ご紹介のイザイの復刻CDは買いました。
滅多な事では復刻CDを買いませんが、はっきりとした理由がありました。
例の、2枚を確認するためです。

ソロ吹込盤はカタログにあるもの全てを集めたつもりでしたが、例の2枚が見つかりません。大体、例の2枚が何なのかすら解らなかったのです。

以前、関西のレコード・ディーラーの方に探していただき、所蔵しているコレクターを突き止め、譲渡を折衝していただいたのですが、「けんもほろろ」でした。

極めて僅かの盤のみが現存しているようです。

今思い出しても残念な出来事でした。

物欲の話でスミマセン。

Posted by: mr.hmv | Tuesday, June 20, 2006 at 07:35 PM

>例の2枚

記憶があやふやなのですが、シューマン(これは間違いないはず)と、「子どもの夢」だったでしょうか。
私がイザイのCD復刻を最初に手にしたのは、1990年前後に香港の怪しげなレーベルから発売されたものでした。
ちょっと今は現物を確認するのが難しい状態(自室の『縄文初期』の地層を掘り返さないと出てきません)なのですが、件の超レア盤は漏れていたものと記憶しています。

借り受けるだけでも難しい、といった所なのでしょうか。

その後、SYMPOSIUMの1045でようやく聴くことが叶いました。やはりこのレーベルは、「さすが」の一言に尽きます。

>今思い出しても残念な出来事

うーん、厳しい世界ですねえ(^^;
一体、世界で何枚が残っているのでしょう?
現存しているものの大半はポール・ゲッティのような大富豪や、欧州王侯のお歴々によるコレクションに収まっているような気がしますが…。

Posted by: Tando | Tuesday, June 27, 2006 at 10:14 PM

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