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Monday, November 03, 2008

エレーヌ・グリモーのバッハ

孤高にして峻厳なる現代のピアニスト、エレーヌ・グリモーが物凄いCDを出した。
これは新譜だが、既にして歴史を画する名盤の資質を有している。
今年はじめ、一旦発売中止となっただけに、漸くの流通が叶った喜びもひとしおだ。

平均律クラヴィーア曲集からの抜粋を鏤めながら、ブゾーニ編曲の「シャコンヌ」、リスト編曲のBWV.543の「前奏曲とフーガ」、ラフマニノフ編曲のBWV.1006のプレリュード(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番)、そしてBWV.1052の「ピアノ協奏曲第1番」を収めている。

一枚で70分を超えるCDなのだが、通しで全て聴き終えて、驚くほど重い疲労感が残った。
これは本来、2枚に分割するべきボリュームだと思う。
それほどまでに各楽曲に対するグリモーの集中力は凄まじく、一瞬たりとも弛緩を見せることはない。

ブゾーニ編曲の「シャコンヌ」は、私に限らず、少なからぬ方にとって悪疫のような一曲だと信じる。
ピアニスティックな、ヴィルトゥオーゾ的なアプローチもあれば、原曲へひたむきに回帰しようとするアプローチもあるだろう。とかく多様な側面を併せ持つ魔性のピアノ曲が、この「シャコンヌ」なのだ。
演奏史的に視ると、ブゾーニ自身がピアノロールに刻みつけた畏怖すべき名演の、その血脈をあかあかと受け継いでいるのが、ここに聴かれるグリモーの演奏なのだと私には思われてならない。
静謐でありながら劇的であり、荘厳でありながら流水のように柔軟な、そういう演奏だ。

アルバムの結びには、私が大の苦手とするBWV.1006のプレリュードが入っているのだが、かくも纏綿、かつ爽涼感に溢れる音楽としてはついぞ聴いたことがない。CD1枚を通じた演目上の配置も、絶妙に設計されているのだ。

後は私があたら言葉を連ねても空しいだけだ。
とにかく、ご関心の向きは実際に聴き通して頂くほかにない。
発売と同時に手にしてからというもの、私は憑かれたように繰り返し聴いている。
 


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Comments

シャコンヌって誰が弾いているか?を感じなくなってしまうような演奏が好きです。もちろん奏者とバッハが思いっきり対峙していていいんですけど。

Posted by: Sonore | Tuesday, November 04, 2008 at 06:44 PM

お久しぶりです。

グリモーは元々好きなピアニストなので、好きな曲だらけのこのアルバムは以前から気になっていましたが、やはり良いですか!
ジャケットもいいですよね。
僕も購入してみます!

Posted by: ウィルソン | Tuesday, November 04, 2008 at 11:30 PM

>Sonore様

バッハで我を張るような演奏があるとすれば、それは私も苦手かも知れません。
グリモーはいいですよ…。
いくらでも華美にできるし、いくらでも地味に出来るこの曲の、実に深いところへ潜っています。

Posted by: Tando | Saturday, November 08, 2008 at 10:14 PM

>ウィルソン様

私にとって、グリモーは色々惹かれる要素を持っているピアニストです。
彼女の人となり等々をある程度知った上で、最初に手に取ったのがブラームスで、これが凄く良かった!
以来、グリモーはずっと追ってます^^

バッハ、いいですよ~。

Posted by: Tando | Saturday, November 08, 2008 at 10:15 PM

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