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Sunday, March 08, 2009

「懺悔」「タブラ・ラサ」

もっと効率の良い記述方法に注ぐ努力の余地はあるが、順序を優先して書かせて頂きたい。

昨年夏に発売され、私を驚喜させたのがセルゲイ・パラジャーノフの監督作品「火の馬」DVDプレミアムエディション/デジタルリマスター版だった。

「ざくろの色」をはじめ、その後私をパラジャーノフの虜にした端緒がこの作品だったので、良質な形のサプライは本当に嬉しかった。そして、色々と特典映像を附随させた仕様となっている点も、この種の映画を嗜好する者としては有難いことだ。

複数の特典の中で、私が「はて」と首を傾げた映像がある。
それはテンギズ・アブラゼ監督の「懺悔」というグルジア映画のトレーラーで、英語字幕のみが附されている。
時間的には3-5分程だろうか?
過去と現在のソヴィエト地方都市と白日夢のようなイメージが錯綜する、強烈な印象を残すものだった。
しかし、より以上の情報が一切無い。近日DVDが出ると言うことなのか、それとも……?
ともあれ、機会があれば是非観たい映画として、脳裏の一隅に留め置かれた。

・・・・・・

先日、映画魔の妻が入会している京都シネマからの月報を、私が郵便受けから取り出した。
そうすると筆頭に「懺悔」上映情報が掲げられている。何という偶然!
「この映画はいつから上映が始まるの?」すがりつくようにして妻に訊いた。
私がシアターに足を運ぶことを億劫がるので、滅多に映画の話を持ち出さない妻だが、珍しく一声掛けようという心づもりでいてくれたらしい。
美味なるワイン、音楽、バレエ、ピロスマニの国、グルジア。
私が愛着を寄せるその国の映画ということで、空振りを承知で勧めるつもりだったそうだ。
夫婦の絆である。

岩波ホールを発信元として、全国で上映されるスケジュールらしい。
懺悔(1984)|ZAZIE FILMS

ああ、「懺悔」、遂に観ることが叶った。
滅多にシアターに足が向かない私の、その期待に違わない名作だった。

事後の感想として、ソヴィエト時代末期、体制とシンクロニシティを有しながらこの映画を観た人々は、さぞかし感動しただろうなあと思う。
皆が体験しながらも重く口を閉ざしてきた粛清の暗黒時代を、いざ、となってどのように振り返るのか、「懺悔」はそのアプローチの一つとして実に傑出した作品だった。
他方、この作品が時を得て世に出て、多くの観衆の絶大な支持を受けたのは僥倖(実際にその通りなのだ)で、同じように秀逸な企画が恐らく無数に葬られていったであろうことは想像に難くない。

何にせよ「雪どけ」期のソヴィエト社会は、追い掛けてみると面白い。
中世都市とまっすぐ一本に繋がったような生活風景と、最悪の統制社会に喘ぐ灰色の時代と、西欧の最新ヒットチャートから一年遅れくらいのポップカルチャーとが混在している世界。
配給元のサイトで配信されている予告編よりよりは、「火の馬」DVD付属のトレーラーの方が遙かに的確に、キャッチーに作品の美しさを凝縮しているのがもどかしいが……、とにかく多くの方にご覧頂きたい作品だ。

DVD「懺悔」


・・・・・・

そこで、アルヴォ・ペルトの「タブラ・ラサ」に話は繋がるのである。

この映画の中盤、とりわけ重く哀しいシーンに、静謐で美しい音楽が寄り添う。
「これはペルトの『タブラ・ラサ』じゃないか」と思いながら観ていたら、沈鐘のようなプリペアド・ピアノの音が入ったので間違いないと確信した。
1984年のソヴィエト映画で、「既に」ペルトの「タブラ・ラサ」が用いられている。驚愕した。
これは一体何処から持ってきた音源なのだろう。
まさかECMの音盤だというのか?
帰宅して音盤を手に取る。
"1984 ECM Records"とクレジットがある。そうだよな、発売時期と前後するよな、と思いながら収録年月日を確認して今一度驚愕した。「タブラ・ラサ」は1977年、ボン/ケルン西ドイツ放送によるライヴ・レコーディングとある。
そうか、1984年の「懺悔」制作時、既にECM盤収録の「タブラ・ラサ」は数年の時を経た音楽だったのだ。
ちなみに、同時期においてアルヴォ・ペルトは日本において未だ知る人ぞ知る音楽家である。
……だとすれば、「タブラ・ラサ」は一体、当初はどういう形態で、どの経済圏に供給されたのか?
思えば、アルフレード・シュニトケがプリペアード・ピアノを弾いているのも妙だ。
この人も自作自演が幾つかあるが、積極的にパフォーマンスを行う作曲家というイメージはない。
それが、他作の演奏に参加するとはどういうことだろう?
ペルトの人徳なのか、それとも、1977年のボンでのライヴは、それだけ歴史的な機会だったのか?
これは、今後の探求課題としよう。

・・・・・・

タブラ・ラサ──この音楽を如何に語ろう?

光 闇
陽光 陰影
水脈 流水 水滴
乳白 青白 純白 空白

至純

静謐

普段から「銀璧亭」にご来訪頂いている方には、私がお勧めするまでもないことは百も承知のこと。
あなた方には、改めて深謝と親愛の念を。

そして、何かの偶然でこの長文を読んで下さった貴方に、私は語りかけたい。
私は、私個人の使命で10枚のCDを世に遺す使命を附されたのならば、この一枚は必ず手に取るだろう。
どうか、少しでも多くの方にペルトを知って欲しい。
どんなジャンルの音楽を聴く人でも構わない。
時代が病んでいる今、このCDに収録されている音響は、静かに貴方に寄り添うだろう。あるいは、やわらかに包み込むことだろう。

とりとめもないようでいながら、日常は連鎖している。

セルゲイ・パラジャーノフ。
テンゲズ・アブラゼ。
アルヴォ・ペルト。

・・・・・・そして・・・・・・?
 

 
 

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Comments

 はじめまして、突然コメント失礼します。
「何かの偶然でこの長文を読ん」だ者です。読んでいるだけでその気になってアマゾンで注文させていただきました。楽しみです。ありがとうございました。
 他の記事もたくさん読ませていただきましたが、力強い文章に博覧強記ぶり、圧倒されました。特に音楽関係が、文章に引き込まれてすぐ聴いてみたくなります。新しい記事も楽しみにしています。
 お邪魔しました。ありがとうございました。

Posted by: 金沢 | Monday, May 25, 2009 at 11:49 PM

>金沢さま

ようこそお越し下さいました。そして、嬉しいお言葉本当にありがとうございます!
この「銀璧亭」は2004年夏からまもなく5年間、細々とながらどうにか続けております。

どうも昨今は、Webで広く自分の文面を発信することに怖じるところがあって、更新の頻度もなかなか覚束無い状態でお見苦しい限りです。

しかし、折に触れてこの場で書きたいことがあるのもまた事実です。今後ともご高覧を賜りましたら幸甚です!

>ペルト

願わくは、金沢さまにとりまして意義のある出逢いでありますことを…!
もし「タブラ・ラサ」の一枚がお気に召しましたら、同じペルト、同じECMの「アリーナ」もお薦めいたします^^
 

Posted by: Tando | Saturday, May 30, 2009 at 08:43 PM

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