マーラー/大地の歌/ワルター指揮(1936年ライヴ)
何かと落ち込み激しい時には、いつの間にかマーラーを聴いている。
ここ数日はワルター/ウィーン・フィルによる1936年ライヴ録音の「大地の歌」(テノール:チャールズ・クルマン/ソプラノ:ケルステン・トルボルク)。
「大地の歌」という作品は、まるで苦い古酒のようだ。
最古の全曲盤である同録音は、その酒がまだ蔵から出されたばかりの頃の芳香を伝えていると思う。
ウィーン・フィルのコンサートマスターは、当時まだアルノルト・ロゼー(マーラーの妹婿)が勤めている。
不揃いな所もあるが、今のオーケストラからは失われた前々世紀の匂いがする。そこに我を張らないワルターの指揮が、却ってスコアに込められたメルヒェンとミステリウムを顕わにしている。
声楽のクルマン、トルボルクもともに理知的で、陰影豊かな優れた歌唱を聴かせている。
前者は英国人の起用だ。初演のテノール、ウィリアム・ミラーとメゾ・ソプラノ、サラ・チャールズ・カーヒアも英国人であったことが、何か関係しているのかも知れない。
特別な意味を持って成されたであろう、マーラー没後半年を経た1911年11月の初演もまた、こうした雰囲気だったのではないだろうか。
総じてこういう雰囲気のマーラーを、「大地の歌」を聴かせようと試みる人々はもう居ないであろうから、私にはとても尊く感じられる。永遠に聴くことの叶わないマーラー自身の指揮解釈を想像しながら、この音源に耳傾けよう。
古い録音から演奏のディテールを見事に拾い上げた、オーパス蔵の復刻にも喝采を送りたい。
ちなみに、「大地の歌」初演者サラ・チャールズ・カーヒアの歌うマーラーは僅かではあるが録音がある。
ゼルマー・マイロヴィッツ指揮、ベルリン国立歌劇場管弦楽団との協演による「私はこの世から忘れられ」(リュッケルトの詩による5つの歌曲より)と、交響曲第2番「復活」第4楽章「原光」抜粋の両面一枚がそれである。
既に60歳の歌い手は音程に不安定な所があるものの、幽冥の世界を思わせる歌唱は一聴して忘れ難い。「告別」などもさぞかし素晴らしかったことだろうと推察される。
Naxosの復刻CD、オスカー・フリート指揮「復活」(1924年アクースティック録音)の余白に収録されているので、ご参考までに。
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