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Friday, December 18, 2009

Maestro-X 頌

Maestro_x
今般、数年来逸したまま渇望していたCDを入手することが叶った。
Maestro X(写真)が指揮する、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」である。
これは巨匠2回目の録音であり、晩年の芸境を後世に伝える貴重な記録だ。
元よりアンサンブルを精緻に彫琢することで人後に落ちぬ巨匠、ここでもその手際は万全と言っても良い。巨匠の至芸に馴染んでいると、いつの間にかこれが当前の水準であると錯覚してしまう。些か困ったことである。その辣腕が余りにも冴え過ぎて、特定のレパートリーにおいては余りにも強烈な光輝を付与してしまうものだから、ややもするとそのイメージが一人歩きしてしまう憾みも否定出来ない。私がこの「英雄」を逸していたのも、恥ずかしながらその弊害に因る影響無しとは言えないのである。
果たして漸く入手した「英雄」は、私が渇望とともに抱いていた、遠慮がちで幾分は願望をも伴う期待に対して、応分以上に応えてくれるものだった。
このセッションでの巨匠は、自らの力量が齎す成果に対して、1回目の録音よりも更に入念な艶消しを施しているように感じられた。殊に管セクションが、時に素朴とも言うべき表情を見せたのは予想外のことだ。
眩い色艶は秘められて、代わりに悠揚とした趣が加わった。それでも、僅かながら管楽器に手を加えて音響を補強している点では、やはり19世紀に生まれた巨匠の流儀の、その余勢が尚も示されているのではあるが。
しかし、それにしても、この「英雄」は豪壮そのものであり、また全体としての構成にも配慮が行き届いて隙が無いことには唯々敬服するばかりだ。
新発掘の放送局音源に勿論心躍るものは後を絶たないけれども、存外正規音源の中にもこれだけの名演が然るべき処遇を受けないまま埋もれているのだから油断出来ない。

Maestro-X は独墺のレパートリーに多くの名演を残している。
ステレオでのベートーヴェン、ブラームスの交響曲全集、ブルックナーの交響曲第4番、5番などはその代表例として挙げられるだろう。或いは、彼の遺産がこれ限りだったとすれば、却って日本人好みのする高い評価に落着していたかもしれないとの邪推をも禁じ得ないのである。
CD期以降これらの音源は不遇と言うべき状況で、ベートーヴェン、ブラームスともに全集の体裁はおろか、個別にもその全てはCD化されていない。CD化されたものについても、満足のいくリマスターで頒布されてはおらず、現状では尚も彼の真価を広く世に問われていないもどかしさがある。
殊にブラームスは極め付きに近い名演揃いで、これが彼の心技ともに万全以上を記録した最良の遺産ではないかと、聴き得た音源(1,2,4番。3番のみ2009年現在未CD化で未聴)の印象から想像している。これが然るべき形で頒布されたなら、世評の大番狂わせが起きるかもしれないと私は夢想している。
実際、個人的に妄執にも等しく愛着深きブラームスの第4番、ただ一種ならば迷わず彼の録音を選ぶ。私は殆どこれで死ねるとさえ思っているし、これをあらゆる条件で凌駕する音源が今後現れるのならば、それこそ願ったり叶ったりである。

<品番>
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」-BVCC-38111(廃盤)
ブラームス:交響曲第4番-IMG Artists 7243 5 75127 2 5(廃盤)
 

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