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Tuesday, April 26, 2011

高射砲?拍手中断?「タモリ倶楽部」でどんな特集が…?

約1年半ぶりに「銀璧亭」を更新致します。

私自身の@nifty既得アカウント混乱(…&情報消失)によって、このblogに上手くログイン出来ない状態が続いておりました。それと、昨年のちょうど今頃に救急搬送されるような大患がありまして…。
故に、ログインと、作文、伴うコミュニケーションの随意性が高い某SNSに偏重していた次第です。

理由は上述の通りですが、それでもなお、この長期間に及ぶ不甲斐無い休眠状態を見守って下さった各位様に、心からのお詫びと御礼を申し上げます。


大変申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございました。


…それでは、2年半ぶりに銀璧亭で「何か書いてみようか」と、機能停止していた意欲が復旧した、その動機について、です。


私はいつもクラシック音楽CDに関する新譜情報のチェックには、ほぼ毎日更新のHMV:音楽・クラシック ニュースピックアップを頻用しております。
そうすると、ここ数日の間、「タモリ倶楽部で紹介された…」と附して、歴史的録音の既発音源が複数紹介されているではありませんか。
はてさて、これは一体何事なのか、と。


同番組は特に「空耳アワー」が楽しみで、随分な年数、翌日の起床時間との兼ね合いが許す限り視聴してきました。しかし、ここ数年の間、私の放送圏は遅れネットの上に放送曜日や時間枠がフラフラ動くので、フォローし切れなくなって動向が殆ど分からずにいる状態です。
タモさんの好奇心と広範な博識ぶり、そして機知に富んだコメントは、「ブラタモリ」でも楽しめるようになりましたし…^^;


先述のHMVサイトで「タモリ倶楽部」に絡めて取り上げられていたCDは現状で2点です。


まず、ワルター・ギーゼキング(ピアノ)/アルトゥール・ローター(指揮)による、1945年1月ベルリンで収録された、マグネトフォン(録音用テープ装置の実用版原型)応用方式によるステレオ録音のベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」。

(↑Amazonは新品入荷の見込みが希薄なので、HMVやTOWER RECORD等でお求め下さい!)

そして、クレメンス・クラウス(ウィーン・フィルの『ニューイヤー・コンサート』創始者)指揮による、没年1954年、最後のニューイヤー・コンサートの実況録音です。

前者は、大破局寸前のナチス・ドイツ、ベルリンで録音された音源。国防軍の高射砲音、或いは連合軍による爆撃着弾音が演奏と同時に録音されているという理由。後者は、聴衆の熱狂と大喝采が演奏を中断させてしまう、という理由で取り上げられたようです。

「タモリ倶楽部」の番組企画自体は「フルトヴェングラー没後125年」と銘打たれていたそうです。
有名過ぎるほど有名な「足音入り」1951年バイロイトのベートーヴェン「第九」

や、戦後、ベルリン封鎖への救済作戦として行われた「ベルリン大空輸」の輸送機飛行音を拾ったライヴなどが本筋として取り上げられていたのだとか。

ところが、番組を視聴なさった方のご感想をWeb等で拝見していると、スタジオの関心はギーゼキングの「皇帝」に収録された爆音の方に傾注されていった、……と思しき様子。

……やはり、ショッキングですよね。平和に依拠しながら文化の豊穣を享受して生育してきた者にとっては、尚更のことです。

さて、他に同類の音源としては、ハンス・クナッパーツブッシュ指揮/ベルリン・フィルによる1944年9月9日、バーデン・バーデンで収録されたライヴ録音、ブラームス/交響曲第3番の第1楽章で聞かれる重音の連なりが、やはり高射砲音ないし爆撃着弾音なのではないか、と言われています。
これも戦時下の緊張と相まって、異様とも言える名演です。

敗北寸前の状況に陥りながらもなお、音楽上演とその録音記録をぎりぎりまで続けたナチス・ドイツ、ドイツ第三帝国末期。刻一刻と迫る「ひとつの世界の大破局」を、否が応でも聴く者に感じさせる音源が、まだ沢山遺存しています。
勿論、いつか、それらをご紹介する機会をも設けたいのですが……ここでは、敢えて異なる意味合いを有する音源を私の聴き知る中から一つ、ご紹介させて頂きたいと思います。


ワンダ・ランドフスカ(演奏楽器:プレイエル特注モダンチェンバロ"Landowska" Model"オリジナル)
スカルラッティ「ソナタ選集」

1934年から1940年までの間に、主にパリで録音された、ランドフスカ(1879-1959)によるスカルラッティのソナタ録音を集めたEMIのCDです。

今回のエントリーの趣旨から私が言い及びたいトラックは、22トラック目のソナタ ニ長調 K.490/L.206です。
録音日は1940年3月(?)の8日、または9日。
時はナチス・ドイツによるフランス侵攻の真っ只中であり、1940年6月14日にパリは陥落します。
そのような、パリがナチス・ドイツによる攻撃に瀕した非常事態下に、この録音は行われました。
(※録音データにある1940年3月初時点で、ナチス・ドイツは本格的なフランス侵攻を実行していないようです。マジノ線越境が1940年5月10日であることを考慮すると、爆音混入の理由か録音データ、いずれかに検証の余地が残されていることを付記しておきます)

後々のモーツァルトの長調ソナタを予期させるような、スカルラッティの牧歌的とも言えるニ長調の楽想が、ランドフスカの高雅な演奏によって進行していきます。

……しかし、演奏開始から約2分後(トラック02:00-02:05秒辺り)に、3回の重爆音が連続して、それも、開け放ちの窓越から入り込むようにして聞こえるのです。

その生々しさは、先述の「皇帝」や、クナッパーツブッシュのブラームスをも上回っているように感じられます。
それでも、ランドフスカの演奏は些かの動揺を見せることもありません。演奏は毅然と進み、演奏は優雅な余韻をも全くして締め括られます。
この後、パリ陥落とナチス・ドイツの侵攻・進駐に伴い、ランドフスカの住居は滅茶苦茶に蹂躙されます。彼女が長年にわたって熱心に蒐集した貴重な譜面、資料や、何より愛着深いプレイエルの愛器……、全てを毀損され、略奪されて、彼女は命からがら、身一つでアメリカへと亡命するのです。

この凄絶な意義を附帯させたドキュメントへ対峙する心持ちは、その人それぞれだと思います。
私自身、上手く言葉で言い表すことは出来ません。

ただ、先述ギーゼキングの「皇帝」、ランドフスカのスカルラッティ、……短絡的な類別を憚ること無く言葉を連ねるならば、各々が包含される国家勢力の立場上では、「加害者」と「被害者」。

……しかし、それぞれの身命に対して、巨大な破滅の危機が迫っているということ。
……そして、いずれの演奏も、なお、この上無く美しく、素晴らしいのだということ。

これは、共通しています。


人が生きる上で、文化、芸術はどの位、不可欠なものなのでしょうか?
外的要因によって生活と身命を脅かされた経験をを持たぬ私が推し量る事は出来ません。

先日、東日本大震災の関連ニュースをテレビで観ていました。
すると、津波で甚大な被害を受けた街の一つ、岩手県釜石市で、被災した人々を元気付けよう、と、釜石の郷土芸能「虎舞」(とらまい)が披露されたというニュースが。

演舞を披露する保存会の中にも、災害の犠牲となった方があったとの事です。
そして、観覧する方々の御身辺でも、尊い生命が奪われた事は想像に難くありません。それだけではなく、からくも難を逃れながらも、数多の大切なものを喪われた事でしょう。

やがて、インタビューを受けた女性が仰った言葉が、私の心に深く突き刺さり、思わず涙腺が緩みました。


「家が流されても泣かなかったのに、『舞』を見たら涙が出ました。私たちも頑張るしかないです」


インタビューに応えた方は、被災後、ずっと苦境に歯を食い縛って耐え、渾身の力を尽くして来られたのではないか。私はそのようにお察し致します。だから、その方は大切な家財一切を津波に奪われても泣かなかった。
けれども、愛着尽きない郷土の、親しみ深い伝統芸能に思いがけず接した途端、ほんの少し前までは確かに在った平和な日々への懐かしさと、演舞に奮起した保存会をはじめとする人々の営みの強さ、……そして喪われた数々の尊いものに対する実感が、ひとときに結像したのではないでしょうか?

……私は、そのように愚考致しました。


今更言うまでも無い事なのかも知れませんが、文化、芸能、芸術は、地球上のありとあらゆる時代と地域で、絶え間無く人間が、強く希求し、発展させ、継承し、敷衍してきたものなのでしょう。
それらは生命維持にとって決して不可欠ではありませんが、「人は何故生きるのか」という難しい命題とは、深く深く結びついているように思われてなりません。
だからこそ、時代、人種、国家、社会集団、思想、宗教……諸々のしがらみを超越して、人の心を共鳴させるのだとの実感を新たに致した次第です。

バラエティ番組を発端としながら、話の主題が移ってしまいましたが……。

東日本大震災による未曽有の大災禍に遭われた皆様が、一刻も早く、平穏で安寧な日々と、喪われた数々の尊い存在に値する、或いは倍する幸福を再び得られることを、不肖、衷心より願い続けます。

2011.4.26 銀璧亭 Tando


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

付:

本文とは別件です。

常からSNS等々通じて親しくして頂いている"夜長姫"-"よながひめ"様が、先般blogを開設なさいました。

  栞ノオト

一日一冊ペースで読書してらっしゃるんじゃないかと思われる程の、膨大な書誌文献に対する御造詣をフルに発揮なさった書評、そして素敵かつハイペースな映画鑑賞レビューが中心の充実したblogです。
こんなに実り多い内容で更新頻度も高いのに、「インターネットで全然見付けてもらえていないみたいです」と嘆いていらっしゃいました。

これは、勿体無いの一言です。

拙blogのように書き手が怠慢なスペースからのリンクは気が引けてならないのですが、此度久々に更新した機会でもありますので、御紹介&猛プッシュさせて頂きたいと存じます。

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Comments

おかえりなさい。ブログ再開、おめでとうございます。更新、楽しみにしています。一ファンより :)

Posted by: @aka | Thursday, April 28, 2011 at 02:11 AM

>@akaさま

はじめまして!

こんな状態だったのに、ご覧下さっていたんですね…。
本当にありがとうございます!

何を書いていこうかなぁ、という重心はまだフラフラしていますが、せめて月1-2回は何か、大切なご来訪者様のお目にかける値打ちがある文章をアップ出来るよう、頑張りたいと思います。

今後ともよろしくお願い致します(^^)

Posted by: Tando | Thursday, April 28, 2011 at 06:49 AM

SP盤には現在では考えられないノイズ、騒音が記録されたものがありますね。

ドンドン、ドスンドスンみたいなかなり低い周波数の音は、当時のアコースティック蓄音機で再生するとほとんど全く聴こえません。そんなことがわかっていたので、録音時には問題視されにくかったのかな?とも想像しています。

演奏者もおかまいなしで演奏に集中していたりします。

でも、そのディスクを現在の周波数特性の広いカートリッジで再生すると、思わぬ低周波な混入音が聞き取れます。

どう考えても、録音場所からかなり近い部屋のドアをバタン!と締めた音、屋外で地下鉄工事でもしているのかというドシンドシンという連続音、音楽が盛り上がってコーダに突入する直前に指揮者が足を踏み込んだ音・・・。

Posted by: Sonore | Thursday, June 16, 2011 at 09:49 AM

>Sonoreさん

少なくとも蓄音機再生では聴取出来ない音って、沢山ありますよね。
「蓄音機≒レコードを美しく奏でる楽器」・・・のようなものであって、「溝に刻まれたあらゆる全ての音を再生する」事が前提ではないなあと感じます。

試した事がありませんが、パイプオルガンなんかはどういう風に鳴るんでしょうね?
オーケストラは編成や配置を録音環境に合わせてコントロール出来ましたが、パイプオルガンはそれが出来なかった訳で、マイクセッティング一本の勝負ですよね。
特にヴィドールとかヴィエルヌ、トゥルヌミールのようなフランス系のオルガニストのSP録音が蓄音機の開口からどう鳴るのか興味深いと思います。

そう言えば、SPの電気復刻をなさっている何方かが、何かの折に(全部あいまいでスミマセン^^;)、SPにはSonoreさんが仰るような色んな音が想像以上に沢山入っていて・・・という事で、まさに挙げられているようなノイズに言及されていました。

>地下鉄工事

これは実際にあるみたいです(笑)
OPUS蔵のメンゲルベルクのニューヨーク録音を復刻したCDの解説に「これはどうも地下鉄の通過音・・・」のように書いてある音源がありました。どれだったかな?

Posted by: Tando | Friday, June 17, 2011 at 01:10 AM

ラジカセや小型モニタースピーカーでもパイプオルガンの雰囲気は出ますよね?
コッポラ指揮のサンサーンスの交響曲3番の1930年頃のSP盤でもオルガンの存在感は出ます。もちろん、ラジカセでフルート管の数10HZの空気感は聴こえないのと同じ結果ですが。

Posted by: Sonore | Saturday, June 18, 2011 at 11:59 AM

>Sonoreさん

すみません……、何かしら意義のあるお返事を、と思っていたら時間が経ってしまいました。そろそろこの話題、知識が覚束無くなって参りました。

Posted by: Tando | Wednesday, June 29, 2011 at 12:05 AM

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