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Wednesday, January 15, 2014

「録音歴60年」を達成した演奏家たち

 ここでは特にクラシック音楽に趣旨を限定します。ジャンルの裾野を広げると際限がなくなってしまいまそうなので。

 先日久々に、ピアニストのヴィルヘルム・バックハウス(Wilhelm Backhaus/1884-1969)のデッカ音源のCDを何枚か取り出して(……と言うか山積みの中から掘り出して)聴いていました。
 彼は契約したデッカが早くにステレオ録音技術を導入したこともあり、この世代のピアニストとしては異例と言える分量のステレオ音源を遺しています。
 その掉尾を飾るのが、1969年の6月26日と28日に録音されたライヴ録音「最後の演奏会」です。6月28日の演奏会を体調不良で短縮して終えた後、7月5日にバックハウスはピアニストとしての一生を全くして長逝しました。
 ここで私がふと思い起こしたのは、バックハウスの生涯初録音でした。これはG&Tのロンドンのスタジオで1908年の9月29日と10月19日に録音された10数面のSPレコードです。録音時、バックハウスは24歳でした。未発売音源を除いたその大半は現在CDに復刻されており、容易に鑑賞することが出来ます。
 1908年の初録音から1969年の生涯最後の演奏会まで、そのスパンは実に61年です。
 仮に「演奏歴」で60年という実績を誇る人があれば、既にそれは非凡なものです。
 しかし更に「録音歴60年」ともなると、運や巡り合わせにも左右されますから、益々稀有な記録であると言えるのではないでしょうか。
 特にバックハウスの場合は、年端も行かない神童としての1908年の初録音ではなく、既に少壮ピアニストとしてのそれなのですから、「録音歴60年」は一層凄みがあります。



 これに伍する大記録の保持者としては、生涯現役を貫徹した指揮者レオポルド・ストコフスキー(Leopold Stokowski/1882-1977)の名を挙げぬ訳にはいきません。
 ストコフスキーの初録音は1917年、フィラデルフィア管弦楽団と共にVictorへ録音したブラームスのハンガリー舞曲第5番と第6盤のSP両面盤です。そして彼は1977年6月に生涯最後の録音、ビゼーの交響曲ハ長調とメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」を遺し、同年9月13日に95歳で亡くなりました。
 言ってみれば独りでも演奏行為が成立する器楽奏者とは異なり、指揮者はタクトに従う楽団が無ければ用を成しません。指揮台に立つということは、希少な例外を除けばそれなりに音楽家としても人間としても成熟した年齢に達していることを意味しています。そういう職能で「録音歴60年」というストコフスキーの記録はまさに非凡なものと言えるでしょう。

 さすがにこの「録音歴60年」の記録、指揮者ではストコフスキーぐらいしか達成していないだろう、と心当たりを数え上げていくと、昨年生誕100年を迎えたジャン・フルネ(Jean Fournet/1913-2008)がその記録を超えていてビックリしました。
 フルネの初録音は、恐らく1943-44年録音とされる、ベルリオーズの「死者のためのミサ曲」(レクイエム)です。これは何故か録音期間が年を跨いでいますが、年末年始のセッションだったのでしょうか?
 そして彼の最後の録音は、文字通り「ラストコンサート」、東京都交響楽団との2005年12月20日と21日のライヴ録音。奇しくもここでもプログラムにベルリオーズの作品、序曲「ローマの謝肉祭」が含まれています。ベルリオーズに始まりベルリオーズに終わった訳ですか。初録音からのスパンは実に62年に達します。凄い!



 こうした記録樹立も録音媒体と機会の普及によって、時代が下がるほどハードルも下がるのかもしれません。
 それでも、たとえば近年活躍目覚ましき若獅子グスターボ・ドゥダメルの録音デビューが確か2005年だった筈ですから、1981年生まれの彼は少なくとも2065年、84歳までは現役かつ録音機会を維持しなければ「録音歴60年」を達成できない計算になります。比較的現実的な数字とは言え、絶対とも言い切れない含みがあります。

 録音歴60年。既に達成した演奏家もこれから達成する演奏家も少なからず数えることができるかと思います。
 ともあれ、当世においても尚稀有なる類の記録でしょうから、レコード会社も自社で演奏家が達成した折には” Diamond Jubilee”とジャケットに銘打って華々しく顕彰してもいいのではないかと思います。

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