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Friday, February 20, 2015

ジブリ映画「風立ちぬ」と竹製の茶漉し

 本日、日テレ系列で21:00~ジブリ映画「風立ちぬ」がTV初放映となります。
 
 この映画は公開時に身内皆々うち連れて劇場まで観に行きました。
 
 思い返せば、家族で最初に観に行ったジブリ映画は1989年の「魔女の宅急便」でした。その頃僕は小学生で、亡くなった親父もまだまだ元気で、今やシネコンだけになってしまった京都新京極には幾つもの映画館があり、新作がかかる都度に手描き看板が架け替えられていました。
 宮崎監督が「長編引退作」と公開前に宣言した作品とだけあって、僕自身にとっての時間の変遷と交錯させながら感慨深く劇場まで足を運んだ次第です。

 この作品を総合的にどう評価するかは難しいところです。
 
 僕は荒井由実の「ひこうき雲」が流れるトレーラーを観ながら、全く手前勝手に感動的な内容を妄想たくましくしていたものです。
 戦間期の飛行機技術の飛躍的な発展の道程に対する、宮崎監督のフリーク的なこだわりの描写から、氏の普段の言行にも明白な反戦主義とが撚り合わされて、ニッポンの飛行機乗り達と飛行機技師達に捧げられる挽歌となろうことを期待していました。
 そんな映画の結びに荒井由実の「ひこうき雲」……、だとすればこれはもう涕泣不可避です。

 洗いたてのタオルチーフを携えて劇場に足を運んだ僕が、実際に「風立ちぬ」を最後まで鑑賞してそれを使ったか如何については書くだけ野暮な話であります。
 しんみりとさせられるシーンは幾つもあったんですが、我が国の戦間・戦中という、未だ脈打ち続ける血管、痛覚を伴う神経とで繋がった時代を舞台としている割に、感情の高揚というものが不思議なくらいありませんでした。
 ただ、緻密に作り込まれた、既に消尽して久しい「木造の生活」の描写の緻密さと血の通ったリアリティには瞠目させられました。そういう舞台の中で、専業声優じゃない演者各位が当てた淡々とした台詞に感覚を委ねていると、小津安二郎の映画と重なるものがあります。
 かかる趣旨の作品を荒井由実の「ひこうき雲」で締めくくっても、期待ほどの効果は上がらないのは当然なのかもしれません。
 まあはっきり言ってこの映画で一番泣かされたのは劇場公開前のトレーラーでした。

 良い所も勿論沢山ありました。
 先にも触れかけましたが、「戦前~戦中の日本」をあれだけ活き活きと、かつ職人的に描けるアニメーション作家はもう幾らもいないでしょう。そして言わずもがな宮崎駿監督は実績も技量も筆頭格でありましょう。その手際を堪能出来たのは得難い収穫でした。
 
 そして話は今回の本旨に移るのですが、堀越二郎が駄菓子屋で「シベリア」(カステラ生地に漉餡or羊羹を挟んだもの)を買って帰った後、自室で紅茶を淹れながら同僚の本庄季郎技師に「シベリアか。妙なもんを食うなぁ」と言われるシーンがあります。
 ここで僕の目を釘付けにしたのが、堀越が使っている茶漉し。
 これが、竹製なんですよね。
 ああ、昔は、金網茶漉しが普及する前は、茶漉しも竹製だったんだなあと、煎茶飲みの僕は一入感動したものでした。こういうプロップの質の高さはジブリアニメの真骨頂ですよね。

 煎茶は金気を嫌うとはよく言われますから、竹の茶漉しで淹れたら味が良くなるのではないか、と思いは巡ります。ただ、これは今でも製造されているのだろうか?

 そう思いながらインターネットで検索したところ、いともたやすくアマゾンに在庫がありました。いささか拍子抜けです。


 (注:リンク先商品は中国製とのことです)

 ただ、案外値が張るのと、これに送料を含めると価格増々で買い倦んだまま歳月を経てしまいました。
 
 ところが、先般偶々、大阪難波の日本工芸館に古陶磁展を観に行った際、館内の「民芸普及部」(日本の手工芸品の購買部門)を覗くと、この茶漉しが売られているではありませんか!
 価格もアマゾンのほぼ半値です。喜んで買い求めました。購買担当の方曰く、これは大分別府の竹細工なのだが、作り手が高齢で体調が余り芳しくなく産量が限られていて、いつ来ても買えるというものではない、とのことです。
 別府の名産竹細工はもう20年以上前から安価な中国産・東南アジア産に席巻されつつあると聞き及んでいましたが、今でも日本人の作り手が仕事を続けているのであれば嬉しい限りです。

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 さて、使い心地です。比較的目が荒いので、茶葉は濾し取りますが澱の通りは多いように感じます。しかし、金属製の茶漉しよりも風味が豊かでまろやかだと感じました。もう何服飲んだとも知れない煎茶ですから、錯覚ではないと思います。
 難しいのは手入れでしょうね。一度使うとすっかり湿気ってしまいますから、この乾燥を怠ると臭気で悲惨なことになりそうです。伝統工芸品を使うことは、愛着と背中合わせで手間暇とも付き合うことです。

 とりとめもなく書き連ねましたが、本日「風立ちぬ」もし御覧の折には、是非「シベリア」と「竹製の茶漉し」のシーンにも目を留めて頂ければ、と思います。

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Saturday, September 15, 2012

タラソフ「前進せよ、今がその時だ」-遂に諦めがついた!

最近になって、Webを通じて、とあるロシア人の御方とご交流頂くようになりました。
先様が日本語と日本文化に対して深い造詣をお持ちなので、そのお陰様で、私の拙劣な語学力でもコミュニケーションが成り立っています。本当に得難くありがたいことです。
それで、私にしては大分と頑張って、以前よりもキリル文字に慣れてきました。

このような経緯から、ごく私的な領域での嬉しい副産物があったので、ここに記します。


きっと、日本に3人か5人ぐらいはこのエントリーを喜んで下さる方が有る筈だ(笑)

2009年に「ロシア革命アニメーション 1924-1979」というオムニバス形式のアニメーション映画が配給されました。
2部構成に分割して、ソヴィエト時代のプロパガンダアニメーション作品を紹介したものです。

ロシア・アヴァンギャルド大好きな私としては、そういうものを大いに期待して当時映画館に足を運んだのですが、さすがにロドチェンコやステンベルク兄弟みたいなド直球にクールな作品はありませんでした。
特に中盤、冷戦期の資本主義陣営に対するネガティヴ・キャンペーン作品群は退屈だったり鬱々とさせられたりで、楽しい鑑賞ではありませんでした。

しかし、それでもトータルで「やっぱり観て良かった!」と思わせてくれたのは、おおよそ我々の社会状況からは生まれにくい強烈な作品が幾つも含まれていたからに他なりません。
「ジガ・ヴェルトフがアニメ撮ってたんだー」なんていう歴史的な感動があったり、はたまた「惑星間革命」の構成にロシア・アヴァンギャルドが生んだ空前のSF映画「アエリータ」(1924)を連想させられたり。

純然たるプロパガンダ作品としては「電化を進めよ」(1972年制作/イワン・アクセンチュク監督/Иван Семёнович Аксенчук/1918-1999)が最高でした。
映像も音楽も発想も、もうビキビキです(笑)

しかし、この上映を鑑賞なさった方の過半数は、恐らくAプロ・Bプロ共に掉尾を飾った、ウラジーミル・タラソフ(Владимир Ильич Тарасов/1939-)による「射撃場」(1979)と「前進せよ、今がその時だ」(1977)の2作品を強く印象に残していらっしゃるのではないでしょうか?
私にとっては特に後者、「前進せよ、」が強烈でした。
非 常 に っ . ょ ぃ.. 中毒 性 が あ  り ます. 。

マヤコフスキーのテクストを元にした映像作品で、ディテールをつぶさに読み解こうとしてもしょうがないんじゃないかなーこれは。或いは、その時代、その国に生きた若者でないとダメなのかもしれない。
映像としてももうバリバリのキタキタ(゚∀゚)なんですが、冒頭、ブンブン振れるモンケーンと共に鳴るソヴィエト・ロックがタマランのです。

この予告編の冒頭部分でお確かめ下さい……。

Youtube 竹書房アカウント
ロシア革命アニメーション 1924-1979予告編

どうです、ヤミツキになりませんか?


みょんみょんみょんみょん♪
みょんみょんみょんみょん♪♪
みょんみょんみょんみょん......♪
.......................♪
ぎょわーん☆☆☆♪♪♪


フピリョード!♪
スタラナ!♪
スクォリェーーーーエ♪
マヤッ!♪


こうなると是が非でもCDを手に入れ、自宅のオーディオでこの曲を鳴らしたくなる、或いはカーステレオで運転中のBGMとして流したくなる……、ような、気がしませんか?(笑)
私はそうだッ!!

この一連の「ロシア革命アニメーション」は、日本より先に英語圏で配給された様子なのです。
直接リンクはしませんが、英語字幕を付したヴァージョンが、この「前進せよ」についてもYoutube他、各種動画投稿サイトにアップロードされており、視聴可能です。
そして、そのエンドロールで、この映画のテーマソングのパフォーマーとして"The Tin Soldiers"というクレジットを見出すことが出来ます。

"The Tin Soldiers"、つまり「ブリキの兵隊」。
さて、これをロシア語に訳して拾うと……、

ОЛОВЯННЫЕ СОЛДАТИКИ
また、エンドロールには、"А.Горин"という人名が、この曲を作曲した人名としてクレジットされています。

さあ、この2つの鍵を使って、ネチネチと検索検索!!

アッ――――――(゚∀゚)タ――――――!!!!!!!!!!!!

<注意:リンク先を開くと大き目の音量で音楽が流れます>

ОЛОВЯННЫЕ СОЛДАТИКИ

バリバリ現役のロック・グループでした。皆さんお元気そうで何より(^^)
このグループ、結成が1968年ということで、既に40年以上も活動しているんですね。
オフィシャルサイトも見つかったところでディスコグラフィを見るのですが、この「前進せよ、」(1976年制作)のテーマソングは
………………………………無い………………………………、
…………………全く見当たらない………………………………。

ロシア、或いはソヴィエト限定で発売された形跡だけでも探せないだろうかと、更に色々検索すると、興味深いページを発見しました。

Вперед, время! (Владимир Тарасов)

ロシア版のYoutubeみたいな動画投稿サイトだと思います。
これに付いたロシアのユーザーさん達のコメントが、この「前進せよ、」が、当のロシア本国では現在どのような状況に置かれているのかを断片的に教えてくれます。


ユーザーさんА:
どうもありがとう!(英語の)厄介な字幕無しで、このアニメの動画を探していました!

 ……ふむふむ、ひょっとすると一連の「ロシア革命アニメーション」作品群、海外から逆輸入的にロシア本国でもリバイバルしたのかな?


ユーザーさんБ:
長い間、この曲を探しているのだけれど……

 ……どうやらロシア本国でも見付からないのか、この曲。


ユーザーさんГ:
仲間よ、私もアンドレイ・ゴリンによる「前進せよ、今がその時だ」の曲を探しています。彼らのウェブサイト上で誰かがそれについて質問していました。でも、返事がありません……。

 ……直接訊いた勇者がいたのかーッ!!


それで、返事が無いということは、どう捉えるべきなのか。
つまり、ОЛОВЯННЫЕ СОЛДАТИКИのメンバーにとって「前進せよ、今がその時だ」は、既に過去そのものなのだという事なのでしょう。

記事タイトルに付したように、ロシア本国の人が訊ね探して、それでダメだと言うならもう、この「前進せよ、今がその時だ」のテーマ曲を、まして日本国在住の日本人がCDで手に入れようなどという儚い望みは諦めるしかありません。
突き詰めるところまで突き詰めて、スッキリ、サッパリしました。

前掲、ロシアのネットユーザーの反応の中には、ソヴィエト共産主義、ボリシェヴィズムに対する露骨な誹謗も含まれていました。
既に覆った体制、制度、思想、社会が生み出した、かかる作品群の振り返りは、とりわけ当事者にとって容易い事では無いと思います。それがダイレクトに、プロパガンダ的性質を伴って制作されたのならば、尚更でしょう。

しかしながら、ヴラディーミル・タラソフの2作品は、露骨なまでの思想統制的な作品群とは決定的に性質が異なると私は感じます。明らかにタラソフは、当時の体制、状況下で許容される目一杯の先取的な作品を創造しています。それが、ある視聴者を今日なお強く惹き付ける要素となっているのでは無いでしょうか。
ОЛОВЯННЫЕ СОЛДАТИКИによるテーマ曲についても全く同様だと思います。

CDで手に入らないならば、ただいつまでも口ずさむのみ!
強烈に刻みつけられた映像を思い浮かべながら。

Вперед!
Страна!
Скорей  моя!!



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Wednesday, January 11, 2012

伏龍興起,鳳雛羽化.壬辰一月.

今年は何か、陽を向くように世が革まる起点であるように感じられるのです。

以前のように、己が心魂を甚大に傾注した更新に復することはもうあるまいと思いますが、このブログ「銀璧亭」を再び脈動させようと思います。

何か特定の宗教や思想に発心したというわけではありませんからね^^;

しかし、幼き時から年々歳々敬慕の念、弥増しに増す、聖ジャンヌ・ダルクの生誕600年を心よりお祝い致します。

Sainte Jeanne d'Arc, priez pour nous.

そして、「心のともしび」運動のマクドネル神父さまの温かい御心に深く感謝致します。
あなたの御手の温もりは、終生忘れません。

....................................................................................................

Dear the Rev. Fr. Graham McDonnell

Thank you very much for you gave me the other day,
For My Fater in Heaven ,,,,and For Us.

The best of health to you.

With our best regards.

Tando
....................................................................................................

「600年」という期間は、東洋的な価値感覚の中では特別な意義を成します。
十二支と十干の組み合わせ「六十干支」の10周目にあたります。
或いは、これは天体の摂理由来なので、生命あるものにとって特別な事象と捉えるべきなのかも知れません。
そうした大きな流れの中で、人類史上の殊に大いなる救世者、聖ジャンヌ・ダルクとの結び付きを考えると、少なくとも、惨禍の極みにあった昨年からの心機一転を期する、積極的な心持ちになれるように思われませんか?

皆様と、そして我々の、大いなる幸福の開基を衷心より祈ります。

ついで、私事。
久々なので改めて申しますが、かく「銀璧亭」、『ヘキ』は『玉』の『璧』で、『完璧』の『ヘキ』なのでございます。
文字が変換されない場合は「完璧」と打つと、たいていの文字入力ソフトでも対応します。
私自身、今の文字入力ソフトに変える前、―このブログの初期―には、「璧」の変換が余りにも面倒なので、「完璧」から拾い上げて辞書登録して用を為していました^^ゞ

この旨についても申し述べているも(常時右ラインからリンク表示)、ついでにaboutもご高覧賜りましたら幸甚です。
……ここだけは、かつての雰囲気を変えないままにしている部屋です。

そして、バナーを作って下さった「紅子サマ」(※当時)、近年消息をしていません。
申し訳ありません。
お元気ですか?
貴作のバナーは、このブログが存続する限り、「篇額」として掲げ続けさせて頂きます!

それでは、本日はこれにて。
タイトルは、干支と繋げて、とにかく何が何でも「大きなめでたい」意図を込めました(^^)

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Saturday, December 19, 2009

トラップ一家物語~Trapp Family Story

NHK-BS2で先日まで再放送していた、「ハウス世界名作劇場」の「トラップ一家物語」(1991年本放送)。
私はリアルタイムで終盤を視聴し損なったままだったので、特に物語後半から録画していました。トラップ男爵がマリアさんに求婚するまでの辺りからです。いやあ、良かった。やっぱり名作劇場は素晴らしいっ!

それで、録り溜めていた最終回までの数話を見終えたところなのですが…、いやあ、泣きました。何処で泣いたかと言うと最終回、一家が住み慣れた家を秘密裏に去るシーン。気の好い料理人のローズィおばさんと子ども達の別れのシーン、うううう、ウルウル。そして古馴染みの、頼れるフランツさん。フランツさんは男爵が破産した時のお金のエピソードで既に私はだだ泣きだった訳ですが、このオーストリア脱出と告別の経緯にいたっては、もうたまりません。乗合バスでのトラップ男爵との別れのシーン、ああ、ダメだ、もうキー叩きながら思い出して涙腺が緩んできた。マリアさんが亡命の船上で何とは無しに歌い始める『別れ』(ムシデン)も心に迫ります。国外脱出を援けてくれた顔ぶれと共に、このよき人々に幸多かれと願わずにはいられませんでした。

さて、クリスマスを見据えた盛り上がりも正に酣、1枚のCDについて今回は書きます。

Christmas With the Trapp Family Singers~
「ひいらぎ飾ろう」「きよしこの夜」等のキャロルと、グレゴリオ聖歌、プレトリウス、バッハ、スウェーリンク、ヴィットリア、パレストリーナによるクリスマス・チャント集

The Trapp Family Singers(トラップ一家合唱団)
マリア・アウグスタ・フォン・トラップ
ウェルナー・フォン・トラップ
マリア・フランツィスカ・フォン・トラップ
ヘートヴィヒ・フォン・トラップ
アガーテ・フォン・トラップ
ヨハンネス・フォン・トラップ
エレオノーレ・フォン・トラップ

シャーリーン・ピーターソン
ハロルド・ピーターソン

フランツ・ヴァスナー(指揮)

1951-53年、Deutsche-Grammophonによる録音。時期的にはまだモノラル録音ですが、テープ機材に移行してからの収録でもあり、とても良好な音質です。リマスタリングが良いのか、適度な奥行きがあり、非常に聴きやすく感じられます。さすがは Deutsche-Grammophonの録音です。
時期的には、既にゲオルク・フォン・トラップ準男爵の没(1947年)後です。そして、ヨハンネス、エレオノーレの両氏が、トラップ艦長とマリアさんの間に生まれたお子さんです。指揮はこの合唱団結成の立役者、ヴァスナー神父が担っています。

さて、この音源なのですが、純粋な音楽CDとしての鑑賞に充分耐える、極めて優れたものです。むしろ、あまりに高尚な音楽が繰り広げられるので、名作劇場や映画『サウンド・オブ・ミュージック』のうきうきするような感動から手に取ると、却って戸惑いさえするのではないでしょうか?
私の場合が正にそれで、「さあ、届いた、どんな合唱なんだろうワクワク…」とプレーヤーにセットして、一曲目のプレトリウスが始まるや、「…え、え? こんなに素晴らしいんですか、何だかスミマセン…」と、思わず居住まいを正さずにはいられませんでした。
そもそも、プレトリウスやスウェーリンク、パレストリーナといった作曲家の名が並んでいる時点で、これが単に享楽的な意図から製作されたものではないことを察するべきでした。合唱団を指導したヴァスナー神父の高い識見に他ならぬことと思います。歌唱、アンサンブル自体も大変優秀であり、一機縁から歌の世界を生業と為すようになった家族のものとは、到底思われません。ヴァスナー神父はどのようにしてこの家族を導いたのでしょうか、本当にとてつもない人です。そして、キリスト者の信仰の篤さ、祈りの深遠さというものがここには満ち満ちています。

さまざまな形で生じた好奇心を満たしてくれるどころか、より一層の感動を与えてくれることは間違いありません。
賑やかで楽しいクリスマス・アルバムとは趣を異にしますが、「クリスマスって本来こういうものなんだよなあ」というところに立ち返らせてくれる、素晴らしい一枚だと思います。

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Tuesday, November 29, 2005

追悼・山下毅雄

作曲家・山下毅雄氏が、さる平成17年11月21日に亡くなったという。
生老病死は人の定めであるが、誠に哀惜の念に堪えない。

私自身は、その全盛期と時を同じくしていない若輩者である。しかし、この偉大な才人が刻んだ轍は、確かに新たな時代を導いたものと信じて疑わない。

今はルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY - MUSIC by TAKEO YAMASHITAを聴いて涙することにしよう。
山下御大自身による各曲目解説と併せて、正に極上の逸品。

「銭形の目玉ギョロリ 追う追う……逃げる逃げる……空もいいなあ……」 (TWO-BEAT ROCK-“LUPIN3 PART2”)

「義理と人情のルパンズプロジェクト。五右衛門、いい事教える。」 (A TOUCH OF JAPANESE TONE)

「不二子ヤーイ! ルパン飛んでやがる。オロロロ…歩いてんのか。ゆけゆけ丘を越えて。」 (SHUFFLE ROCK-LUPIN WALKIN’)

「気分はトロピカル。サンバってェ酒ねェのか!」 (MEDIUM SAMBA)

「ピンチだルパン! ルパン風ピンチって?……アレレ……ワルサーが吠える、バイクが叫ぶ。フヒャー!」 (AFRO“LUPIN’68”)


一見エキセントリックと言うか、可笑しいようだけれども─その後シリーズを重ねるルパン三世、既にここにあり、なのである。創作の経緯への言及も、実に熱くて生々しい「クリエイターの言葉」となっていて見逃せない。

もう一つの推薦CDはこちら。
ルパン三世´71ME TRACKS

行方不明となっているマスター音源を、MEテープからの切り貼りによって「復元」した、誠に頭の下がる大労作。限界ギリギリまでSEを排除した構成となっている点、企画制作の高島幹雄氏の熱意が感じられて、美しい。

さあ、もういいだろう。
「旧ルパン」のマスター音源よ、再び世に還るのだ!!
 
 

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Friday, December 31, 2004

今年を振り返って

8月末に開始したこの「銀璧亭」、ご来訪下さる皆様のお陰をもちまして、ウェブログとしての体裁を保ちつつ、年越しを迎える事が出来ました。
このスペースを通じて、様々な御縁に与ったのは無上の喜びです。このウェブログをブックマーク頂き、常々ご来訪下さっている方、拙い記事に嬉しいコメントを下さった方、相互リンクを御寛容下さった方…。
皆様に、心の底から感謝致します。
本当にありがとうございました。

さて、ウェブログで迎える初の大晦日と言う事で、もう1本だけ本年の総括的な記事を書いてみます。備忘録…と言うよりは、思い付くままに連ねるだけですが(^^;

<今年印象に残ったCD>

◆バッハ:平均律クラヴィーア組曲/リヒテル(p,1973年インスブルック・ライヴ)
版権のグレー・ゾーンを擦り抜けて(?)、中国限定で再発された(中国POLOARTS/CL4B-86080-2)「幻の名演」。日本への正規輸入ルートが存在しなかったこのCD、中国にお住まいの畏友、2号機様のご厚意で入手が叶いました。深沈たる名演奏です。
◆Nuestro Flamenco 2(ヌエストロ・フラメンコ/Vol.2)
RTVE(スペイン国立放送)のVTR音源のCD化第2弾。録音嫌いの伝説的トカオール(フラメンコ・ギタリスト)、ディエゴ・デル・ガストール(Diego de El Gastor,1908-1973)によるソロ演奏を初めて聴いた。僅か20分程の音源、でも、かつてないインパクト。これまで積み重ねてきた価値観が根底から覆った!
◆マリヤ・ユーディナのスクリャービン
正規発売の音源ではありません。Webを通じての御縁から何かとご厚誼に与っている、さるお方にお譲り頂きました。事の性質上詳しく書けないのが残念ですが、聴く者を魔境に引き込むような恐るべき演奏。正規発売を望みます。ご厚意への尽きない感謝と共に挙げる次第です。

<今年印象に残ったかわいいもの>

◆キユーピー
たぶん来年末にも挙がると思うな(笑)
今年も色々楽しませてくれました。「3分劇場」然り、「たらこキユーピー」然り。
でも、今の印象を支配しているのは、「3分クッキング」お正月メニュー特集。画面後方の木製テレビ枠(?)の中で凧揚げしているキユーピーちゃん…かわいい!
◆野生パンダの赤ちゃん
NHKの特集番組「岩合光昭、野生のパンダを撮る!」より。
ご覧になった方も多いでしょうか…?
問題は最初のアプローチの場面。崖の下を見下ろすと、茂みの狭間、朽ち葉の上に、白いマクラないしモチ状の「フカフカした物体」が小さく見えます。まさかと思ったら、それがパンダの赤ちゃん…思わず顔が緩んでしまいました(*^^*)

<今年よく効いた薬>

◆吸出し青膏(たこの吸出し)
今年のMVP薬品(なにそれ)は、何と言っても「たこの吸い出し」
言わば古典的常備薬ですが、時代は変わっても病気の本質は変わりません。現代人にもちゃんと効く妙薬、むしろ今、ニーズは高まっているのでは…?
発売元の町田製薬さま、僭越ながら宣伝攻勢を強化しては如何かと存じます。

<今年凄いと思った言い訳>

◆「客観的に事実なんだろうと思う」(橋本龍太郎元総理/一億円ヤミ献金疑惑への釈明コメント)
「記憶にございません」に続く、政界発の「名言い訳」がまた生まれました。いや、皮肉でも何でもなく、こんな繰り言が出てくる発想力・自己保身センスは凄いと思いますよ。
アニメ「機動戦士Zガンダム」に、パプテマス・シロッコと云う、舌を噛みそうな名前の悪漢が登場します。戦争の重大局面での日和見を上官に咎められた際、彼はこう切り返しました。

「心苦しく思っております。ジュピトリス(彼の指揮艦)が好きに動いてくれませんでした。

うーん、これも絶妙な言い回し。
「好きに動いてくれませんでした」を「アニメ発」の「名言い訳」として加える事で、「記憶にございません」ともども、人生に役立つ3大言い訳として長く銘じたいと思います。

<今年悲しかった事>

マンションに居着いていた猫が、11月に交通事故死しました。人なつっこいけど、何処か分限を心得た所があって、そこが好きでした。
大分時間が経ってから知りましたが、本当に悲しかった。まだ悲しい。
付かず離れず、の間柄だったけど、感情移入していたんだな…と実感します。

<今年嬉しかった事>

色々あります…。結構今年は多難な一年でした。
でも、父と祖母とが相次いで逝去し、母が交通事故に遭った一昨年を思えば、大抵の苦難は乗り越えられるように思ってますし、今年もまたそうしてきたつもりです。

日頃の交友でかけて頂く様々なご厚意。
探していたCDを、出先の中古屋で思いがけず発見した瞬間。
聴きたかった音源が翌月CDになる…と聞けば、その時までは絶対に生きていようと思います。
そんな事を積み重ねながら、自分の人生は絶えず進み続けます。ボートを漕ぐように、過ぎたものしか確かめる事は出来ないけれど、前へ、前へと。


2004年も残り少ないですが、どうにか乗り切って参りました。
来る年がどうか、一層実り多き一年となりますように。


そうそう、大晦日と言う事で今日限りのネタを一つ。
日本のトイレには古来より「加牟波理入道」(カンバリニュウドウ)と云う神様がおわします。大晦日の晩にトイレで一人(普通は一人で入りますよね?!)、「カンバリニュウドウ、ホトトギス」と声に出して言うと、翌一年はトイレで妖怪を見ないで済むそうです。

これで人里離れた民宿も、サイコ・ホラーの話題作も恐るるに足りませんね!
お試しあれ。

それでは皆様、よき新年を…。
 
 

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Sunday, October 17, 2004

コルト マルテーズ(Corto Maltese)

先日の記事「隻眼のマッド・バロン」にて触れたフランスのアニメーション映画、「コルト マルテーズ/Corto Maltese」、とうとう購入してしまいました!

maltese.JPG


ろくろく商品説明も得られないまま購入に踏み切ったのですが、ちゃんと日本語吹き替え音声も付属していて、感心することしきり。
でも、どこをどう検索しても、吹き替えキャストの情報には逢着しないので、本体記載のクレジットを抜き出しておきましょう。

コルト・マルテーズ:堀内賢雄
ラスプーチン:菅生隆之
公爵夫人マリーナ・セミノワ:田中敦子
上海リー:山田里奈

どちらかと言うと、洋画吹き替えに近いスタンスでのキャスティングですね。吹き替え版は未だ全編を観ていないのですが、オリジナルに比べると若干印象が異なるようにも感じます。

さて、全体の感想です。

正直なところ、過剰な期待は禁物、という腹づもりで観始めたものの、なかなかの佳作だと思います。始終抽象的なダイアログに振り回される、くらいの覚悟はしていたのですが、しっかりとストーリーに引き込むだけの力は持っている作品です。詰め込みすぎ、という印象もあまりありませんでした。

しかしながら、確かに物足りなさは残ります。
これは、原作コミックの雰囲気に従順な翻案であるが故に生じた問題なのでは無いか、とわたくしは感じました。
最終的に複数のキャラクターの独白を用いて、ストーリーを補足している要素があるのですが、個人的にさほどの不快感は覚えません。
同時に、この場合に於ける、コミックスとアニメーションという二つの形態の齟齬を示している方法だとも言えます。
ラストシーンで語られた物語の結末が、さほど心に残らないのも、恐らくプロットの限界に因るものではありません。登場人物とその命題との結びつきが、切実さを欠いたままに描写されているからです。
コミックスでは可能な補完的受容も、リアルタイム進行のアニメーション作品で成立させることは難しい、ということを痛感した次第です。

でも、わたくしはこの作品に対する好悪を訊かれたならば、迷わず「好きだ」と答えることでしょう。
作品世界を覆う物憂い雰囲気は、決して付け焼き刃では生まれ得ないものです。わたくし個人の嗜好も関係しているとは思いますが、やはり抗い難い魅力を感じてしまいます。
後先が在るともつかない、鉄路の行く末にその身を委ねる公爵夫人、そしてキャラクターデザインを難じたくなるような、上海リーでさえも、作中にあっては美しいのです。

ただ、公爵夫人の退場の仕方、これはわたくしが抱いた最大の不満点と言えます。こんなにも魅力的なキャラクターを、あのように扱ってしまう神経、少なからず疑いたくもなるというものです。
勿体無いこと、この上ないです。わたくし、怒ってます。

…と、ぼやいてしまう程、公爵夫人は印象的かつ魅力的なキャラクターでした。
作中、蓄音機から流れるチャイコフスキーの「花のワルツ」、年代と照合して誰の演奏なのかを妄想するのも、また楽しです。

さて、本件の発端とも言えるウンゲルン男爵、後半にちゃんと登場しました。冷酷さを伺わせる描写はあるものの、その前に登場したセミョーノフがさんざん暴れ回ったこともあり、期待を裏切る(?)まともな描写に止まっています(^^;
それでも、ようやく目の当たりにすることが適ったキャラクタライズは、なかなかに格好良いもので、一応の満足は得ることが出来ました。
それと、僭越ながらも、過日の記事で連ねた男爵の略伝を留め置いて下さると、作品への理解の一助となるかと存じます。そういう描写が、登場するのです。
 
でも、ウンゲルン男爵が伝奇的に描かれる余地は、まだまだ残されていそうですね。 
次なる活躍の舞台(?)を用意するのは、またも欧州圏なのでしょうか、それとも…?
 
 

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Monday, October 11, 2004

隻眼のマッド・バロン

ロマン=ニコラウス・フョードロヴィッチ・フォン=ウンゲルン=シュテルンベルグ男爵(Baron Roman Nikolaus Feodorovitch von Ungern-Sternberg/1885-1921)という、帝政ロシア末期の軍人があります。
これが、混迷を極めたロシア革命史の中にあって、一際異彩を放つ怪人物なのです。
わたくしは、岩波文庫の「トゥバ紀行」(メンヒェン=ヘルフェン/田中克彦訳)によって、初めてウンゲルン男爵の存在を知りました。
本文と注釈中の決して多くはない記述を総合しても、現代史離れした無軌道な生き様が垣間見えて、関心は尽きません。

ウンゲルン男爵は1885年、エストニアに生まれました。自身が語るところによれば、その家系は12世紀にロシアに侵攻したドイツ騎士団に起源を持ち、さらに匈奴の血をも引いているということです。
ロシア革命の混乱期、男爵は当初シベリアで白軍の部隊を指揮していました。しかし、赤軍に追われたことでモンゴルのクーロン(庫倫/現ウランバートル)へと転進します。そこで男爵は、モンゴル在来の中国人を放逐して、反革命の拠点、ひいては自らの帝国を興すことを画策するのです。寄せ集めの部隊1000人(2000人とも)を率いた男爵は勝敗を繰り返しながら、遂にはクーロン攻略に成功しました。モンゴル人は当初、長く続いた中国人支配からの解放者として、男爵を大歓迎したといいます。
しかし男爵の統治は残虐極まりないもので、程なく完全に人心を失うことに。やがて侵攻してきた赤軍との戦いに度重ねて敗れ、1921年、護送先のノヴォシビルスクで銃殺されました。

日本語で男爵の名を目にする機会というのは、専らモンゴル史に関する文献が中心です。「隻眼のマッド・バロン」という異名で呼ばれていたとか、その部隊には100人にものぼる日本人が参加しており、「日の丸大隊」と称していた─など、断片的な情報は見出せても、まとまった伝記に逢着することはありません。
海外サイトで発見した肖像は、エピソードに違わぬ悪相ぶりを呈しています。何やら風格すら漂わせているではありませんか。

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なお、モンゴルにおける男爵の活動と人となりを諸外国に知らしめたのが、ポーランド出身の探検家、フェルディナンド・オッセンドフスキ(またはオッセンドウスキ/1876-1944/Ferdinand Ossendowski)です。
彼はロシア革命からの亡命の途上、ウンゲルン男爵の知遇を得て、一時期をその帷幕で過ごしています。
オッセンドフスキの記述によると、男爵はオカルトにのめりこんだ半狂人で、殺した人間の生き血を飲んだりしていたとか。西欧では未だにこのイメージが定着しているようで、ルーマニアの「串刺し公」ヴラド・ツェペシュや、ハンガリーの「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリーと並んで、実在人鬼の系譜に加えられることも少なくありません。
しかし、「トゥバ紀行」のメンヒェン・ヘルフェンは同著の中で、それら全てが虚構であることを喝破しています。そもそもオッセンドフスキ自身が、地底王国の存在をレポートするなど、胡散臭さ溢れる人物なのですが…。
ともあれ、ウンゲルン男爵が常軌を逸した残虐性の持ち主であったことは確かなようです。


さて、ウンゲルン男爵、ごく最近になって知ったのですが、フランスのアニメーション映画に登場しているらしいのです。

その作品はコルト マルテーズ(Corto Maltese)
ユーゴ・プラット(Hugo Pratt/1927-1995)原作の大ヒットコミック(フランスではバンド・デシネ-Bande Dessineeと呼ぶ)のアニメーション化で、今年の前半に日本でも配給されたとのこと。寡聞にして知りませんでした。
詳しくは前掲サイトをご覧頂きたいのですが、とにかくこの作品、一度観たくてたまらない! 
舞台設定、登場人物、キャラクターの造形、見れば見る程、個人的なツボを押さえ切った雰囲気を漂わせているのですよ~o(>_<)o

DVDが国内発売されているとのことなので、購入を真剣に検討しているところです。

スタッフに目を移して気付いたのですが、マリー・トランティニャンが声優として出演しているのですね。
この人の最期は、本当に気の毒なものでした。
胸が痛みます。


続編記事>>コルト マルテーズ(Corto Maltese)
 
 

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